中国当局の盗聴におびえ、筆談で脱出計画 自ら働くと「社長から賄賂」の疑い、失業恐れ 話の肖像画 夢グループ創業者・石田重廣<19>
《中国・天津の貿易会社と契約し、個人輸入での通販事業に乗り出した。ところが注文した商品が日本に届かない。現地で確認すると、スタッフは郵送作業をせず、お茶を飲んでいた。通訳に理由を聞くと…》 【写真】夢グループのステージでは自ら運転して移動することも 通訳は「中国の郵便局は1週間に1日しか海外に郵送できないんです」と言う。「ああそう。それで?」「だから週に1日はみんな、頑張っているんです」。頑張っているって、おいおい、お茶を飲んでいるだけじゃないか。オフィスには注文品が山積みになっているぞ。で、「週に1日の郵送に向けて、梱包(こんぽう)作業とか宛先の記入とか、しないのか?」と聞いたんです。 通訳は「それはできません」ときっぱり言う。理解不能です。「石田社長、分かりませんか。中国では自ら働くと、社長から賄賂をもらっていると思われるんです」と。なんだ賄賂って…。戸惑う僕を横に、「賄賂をもらった社員は仕事を失うんです。だから梱包は1日1個が限界なんです」と。 ようやく合点がいきました。当時の中国の共産主義社会の下では、お互いに監視し合ってみんながおびえていたんです。人より仕事をすると、誰に何を言われるか分からない。だから1日1個、梱包し、週に1日、郵送するだけでいい、と。そういえばオフィスのある国際デパートも店員さんがいっぱいいるのに活気がない。これも自ら働くと上司から賄賂をもらっているとされ、失業になることを恐れていたからなのか、と。 《リヤカーで郵便局へ》 こうなればもう自分でやるしかありません。梱包して宛先を書くと、1時間で6個くらいの小包ができた。で、僕は黙々と作るわけです。それでもみんな、一向に手伝う気配はない。もう腹立つなあ、って。1時間で6個を7人だから40個くらいは作れるじゃないか…。 取引先の貿易会社には車が3台あるという。1台は社長用、1台はVIP用、そしてもう1台がトラックだと。で、通訳が「石田社長、トラックをお使いください」と言うので、見てみたら、自転車で引っ張るリヤカー、あれね。それに小包を積んで郵便局に行くわけですよ。 4往復はしましたか。通訳以外、最後まで誰も手伝ってくれませんでしたね。こうしたこともあって、この天津の貿易会社との取引は1年で解消し、香港に拠点を移すことにしました。
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