中国当局の盗聴におびえ、筆談で脱出計画 自ら働くと「社長から賄賂」の疑い、失業恐れ 話の肖像画 夢グループ創業者・石田重廣<19>
《通訳もおびえていた》
このとき手伝ってくれた通訳は、蘇建民という、信州大学に留学経験がある男性です。日本語が達者なのですが、中国共産党の党員でないから、頑張っても出世はできない。その蘇建民が「お願いがあるんですが」って言う。オフィスでは話しづらそうだったので、泊まっているホテルに呼んだんです。
で、蘇建民がやってきた。それが部屋に入るやいなや、テーブルの下とか、椅子の裏側、ベッドの下とかに頭を突っ込んで、なにやら探し始めたんです。あまりに挙動不審なので、「どうした?」と聞いたら、声は出さず、紙に「盗聴器」と書いた。盗聴器が仕込まれているかもしれないと、チェックしていたわけです。天安門事件の直後で外国人との接触に当局が目を光らせていた時期でした。
そこからは筆談です。蘇建民は「僕は日本に行きたいんです。石田社長の下で、中国の商品をいっぱい日本人に紹介したい。それで会社は発展すると思います。力をお貸ししますので応援してくれませんか」と。「どういうこと?」「僕を日本に呼んでくれませんか」「自分では来られないの?」「行けません。会社が日本語と中国語のできる人を雇い入れるという形にして、就労ビザをもらってくれませんか」
蘇建民は勤勉でしたので、断る理由はありません。役所に出す書類は全部自分で用意するという。でもそういう話は、オフィスとか公の場ではできないわけですよ。こうして公園やトイレなどで、偶然を装って密談を重ねる日々が始まりました。(聞き手 大野正利)
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