「私を捨てた母をさがして」20年ぶり再会に涙した母娘 人間模様が交差するバラック飲み屋街「塙山キャバレー」 #ydocs
子どもを20年前に捨てた「ラブ」のママ
そんな「京子」ママを心から慕う人がいる。「京子」の2軒隣に店を構える「ラブ」のママである。 当初、彼女は取材に対して「京子」ママへの憧れは語るが、自分の過去については一切口をつぐむ人だった。 「ラブ」ママにある日、ちょっとした事件が起きる。 「ラブ」ママの娘と名乗る30歳の女性が、塙山キャバレーを訪ねてきたのだ。詳しく事情を聞くと、「ラブ」ママが20年前に子ども3人を元夫のところに残し、出奔していたことが判明する。訪れた女性はそのうちの1人。つまり「ラブ」ママの娘で、戸籍謄本を頼りに、母を探し出したのだった。 娘は自分を捨てた理由を語ろうとしない「ラブ」ママに激高し、再び、母娘の縁を切る。二人の様子はすでに撮影済みだったが、娘から「取材を中止してくれ」との連絡が入る。番組で「ラブ」ママに触れることが一切できなくなった。ところが…、である。放送3週間前の昼過ぎ、突然、娘からメールが届いたのだ。 「こんにちは。日立に来ています」 慌てて「特急ひたち」に飛び乗り、「ラブ」ママと娘のところに向かった。 すでに出来上がりつつあった番組の構成はめちゃくちゃになるだろう。しかし、彼女が逡巡の末、母と再会することを伝えてくれたと思うと、うれしかった。結果、母と娘と二人の弟がもう一度、よりを取り戻そうとする場面を撮影できた。 その後も「ラブ」ママと娘は、再び「二度と会わない」というような大喧嘩をしたかと思うと、二人で塙山キャバレーを飲み歩いたりするなど、組んずほぐれつ20年ぶりに親子を始めようとしていた。 娘は「ラブ」ママの内縁の夫である“かっちゃん”とも大の仲良しになっていた。ある日、かっちゃんが「ラブ」ママの娘と携帯電話で話しながら「声が聞けてうれしい…」と頬を涙で濡らすのを見た。なぜ、かっちゃんが泣いているのか、その時は理由がわからなかったが、後にかっちゃんが実の娘を40歳の若さで亡くしていたことを知った。 そんなかっちゃんが亡くなったことを2022年1月、「ラブ」ママの娘から送られてきた葬式の写真で知った。写真には、かっちゃんのアパートで遺影を囲んで弔い酒を飲む「ラブ」ママと二人の弟が写っていた。 かっちゃんが亡くなった後、「ラブ」ママは「明日、死んでもいいんだ。明日、死んでもいい」と口にするようになる。かっちゃんが亡くなって10カ月たっても、ろくに飯も食べないで、涙を流していた。傍らには、塙山キャバレーの仲間である「わいわい」のママが寄り添っていた。料理上手で知られる「わいわい」ママは「まぜご飯作ってやっから」と伝え続けていた。 2022年11月の「ラブ」ママの誕生日。 「めぐみ」のママがワインを開け、カラオケ伴奏の「Happy birthday」を歌いながら、「ラブ」ママが生まれた日を祝った。当の本人は、突然始まった誕生日パーティーに困惑しながら、普段、全く飲まない赤ワインを無理矢理、喉に流し込み、「こんなに、盛大に……」と久しぶりの笑顔を見せた。リクエストを受け、矢沢永吉の「ウイスキー・コーク」を絶唱した。