「月の大気」の約7割は流星の衝突に由来すると解明
■月の大気の約7割は流星の衝突によって発生することが判明
Nie氏らの研究チームはこの疑問を解決するため、アポロ計画で採集された月の土壌を詳細に分析する作業を行いました。カギとなるのは「同位体」と呼ばれる性質です。これは簡単に言えば、同じ化学的性質を持つために、同じ元素に分類される原子であっても、重さがわずかに異なるものがあることを意味しています。 重いボールは軽いボールより動かしにくいように、重い原子は軽い原子より動きにくくなります。これを月の大気に当てはめれば、重い原子は岩石や土壌からより蒸発しにくくなり、一度飛び出しても宇宙へと逃げ出しにくく、再び地面に舞い戻ってくることを意味します。月の表面は何十億年もこのプロセスを繰り返しているため、より重い原子が月の表面に残りやすくなるはずです。 Nie氏らは、衝突蒸発とイオンスパッタリングでは、重い原子の逃げ出す割合が異なるため、慎重に同位体の分析をすれば、どちらがメインの発生源なのかを突き止められると考え、分析を行いました。この実験は、貴重な月の土壌サンプルを酸で溶かして処理する過程もあるため(※2)、滅多にできる実験ではありません。 ※2…フッ化水素酸、硝酸、塩酸を何段階かに分けて混合しました。 Nie氏らは、特に蒸発しやすい金属であるアルカリ金属のうち、カリウムとルビジウムを対象に同位体比率の分析を行いました(※3)。そして、衝突蒸発とイオンスパッタリングのそれぞれで発生しうる同位体比率の値を、実際の測定値と比較することで、どちらの作用が何割くらいを占めているのかを推定しました。その結果、土壌に残された同位体比率をよく説明できるのは、約7割が衝突蒸発、約3割がイオンスパッタリングという割合で月の大気が生成される場合であることが分かりました。言い換えれば、月の大気の約7割は流星の衝突によって発生する可能性が高いことになります。 ※3…同じアルカリ金属でも、カリウムとルビジウム以外の元素は、月の大気の研究には適しません。リチウムは蒸発しにくく、ナトリウムとセシウムは天然に同位体が1種類しかないためです。