鉄分不足は世界で20億人以上、心臓病など深刻な悪影響も、日本女性の摂取量は推奨の6割
貧血のほか慢性の腎臓病や肝臓病、メンタルヘルスにも影響
世界では20億人以上の人々が鉄分不足に悩まされている。鉄分はいくつかの重要な体の機能にとって欠かせないミネラルであり、不足している人は、疲労感、息切れ、めまい、頭痛といった症状、さらには心臓病などを経験することが少なくない。 ギャラリー:「病気を生む顔」になる食べ物とは 画像5点 鉄分不足はあらゆる年齢の男女がなりうるが、妊婦など特に影響を受けやすい人々もいる。鉄分不足を放置すると、貧血、つまり健康な赤血球の不足へ容易に進行する。鉄分の不足は、貧血の原因として最も一般的だ。厚生労働省の令和元(2019)年国民健康・栄養調査によれば、日本では男性の10.8%、女性の13.5%が貧血の基準に当てはまる。 こうした状態は、短期的にも長期的にも、健康にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があり、リスクのある人は鉄分レベルの変化を確認すべきだと語るのは、米スタンフォード大学の母体・胎児医学の講師であり、女性の生殖に関する健康を専門とするイログエ・イグビノーサ氏だ。 「通常、人が貧血になる場合、すでにしばらくの間、鉄分不足が続いてきたことを意味しています」と氏は言う。
鉄分不足や貧血に悩まされるのはどんな人たちか
鉄分不足を抱えて生活すると、体に多大な負担をかける。鉄分は、赤血球が体内に酸素を運ぶために必要なタンパク質であるヘモグロビンを作るのに欠かせない。そのため、鉄分の量が少ないと、臓器、筋肉、組織が酸素を十分に受け取れず、最大の力を発揮できなくなる。 多くの人は食物から十分な鉄分を吸収しているが、食事での摂取だけでは鉄分が足りない人もいる。それだけで死につながることはまれだが、鉄分不足は腎臓病や肝臓病といった慢性疾患を悪化させたり、感染症やけがからの回復を遅らせたりすることが知られている。なぜなら、そうした状態の修復には酸素が必要だからだ。 厚労省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、月経のある女性は男性より鉄分が多めに必要で、1日の推奨量は15~64歳で10.5~11ミリグラムだ。しかし、国民健康・栄養調査によれば、日本の女性は平均値でその6割ほどしか摂取していない。妊娠の中・後期はさらに9.5ミリグラム、妊娠初期と授乳中は2.5ミリグラムを加える必要がある。18歳以上の男性の場合、1日の推奨量は7~7.5ミリグラムだ。 鉄欠乏性貧血は通常、徐々に進行するが、女性の方が男性よりもなりやすい。これは、月経周期によって悪化するためだとイグビノーサ氏は言う。出血量が多かったり、月経の期間が長かったりする場合には、もともと限られた鉄分の蓄えがさらに減ってしまう。 「最低限の必要量を摂取せず、鉄分が失われる現象が毎月起これば、鉄分不足に陥ることは容易に想像できるでしょう」と氏は言う。 体にとってこれほど重要な栄養素の欠乏は、脳に変化を生じさせ、集中力の欠如や記憶障害など精神衛生上の問題を引き起こす可能性がある。これらの不調は、場合によってはストレスやその他の生活要因が原因だと誤解されるかもしれない。 貧血はまた、妊娠の危険性を高める要因にもなる。鉄分の蓄えの不足は、母子両方の生存に影響を及ぼしかねない。貧血の傾向がある人が出産した場合、大量出血したり、帝王切開が必要になったりするリスクが高まる可能性がある。 「貧血は母体罹病率を確実に高めます」とイグビノーサ氏は言う。「貧血がどの程度そのリスクに関わるかは、人種や民族によっても異なります」。母親の貧血はまた、死産、早産、低出生体重のほか、その後の神経発達の遅れとも関連している。 これまでの研究では、米国の黒人、ヒスパニック、先住民の女性は、ほかの人種の女性よりも貧血である割合が高く、妊娠中や出産後も貧血や合併症を抱える可能性が高いことが示されている。 その理由はまだ十分には解明されていないが、おそらくは女性たちが置かれている環境の違いや特定の婦人科疾患にかかりやすい素質、または居住地、収入、文化、健康的でバランスのいい食事へのアクセスといった、健康にまつわる社会的な決定要因によるものだろうとイグビノーサ氏は述べている。