97歳の「知られざる画家」が人気上昇。オークションでは予想の5倍で落札、再評価ぶりを裏付け
10月1日に行われたクリスティーズの戦後・現代アートセールで、最初に登場したのが97歳の画家ロイス・ドッドの繊細かつ魅力的な作品《Reflection of the Barn(窓に映る納屋)》(1971)だ。額縁の中に額縁が重なっているように見えるこの絵に描かれているのは、薄手の白いカーテンがかかった窓。青い空に浮かぶ白い雲と、窓枠の境目で少しずれたように見える納屋がマグリットを思わせる。 予想落札価格は6万から8万ドル(直近の為替レートで約870万~1160万円、以下同)と控えめな値付けだったが、2人の入札者による競り合いの末、最高予想額の5倍近い37万8000ドル(約5480万円)で決着した(以下、販売価格は全て手数料およびバイヤーズ・プレミアム込み)。ドッドにとっては目覚ましい結果と言えるが、クリスティーズはそれを予想していた節がある。彼女をオークションのトップバッターに据えたのは初めてではないからだ。 今年3月の戦後・現代アートセールでも、ドッドの《Green Door and Bed(緑のドアとベッド)》(1994)がオークションの先陣を切って登場し、今回と同じく約1100万円の最高予想額のところ、23万9400ドル(約3620万円)で落札。これらの2作品はともに、オークションにおけるドッドの最高額を記録した。 ここ数年、ドッド作品の需要は上向きで、特に大型のものに好調さが目立つ。5月にフィリップスで行われたモダン&コンテンポラリー・アート・デイセールでは、《Wild Geraniums(野生のゼラニウム)》(1974)が、やはり6万から8万ドル(約870万~1160万円)の予想価格を大きく上回る22万8600ドル(約3300万円)で落札。2021年にハインドマン・オークションズが開催した戦後・現代アートセールでは、《Window Reflections, Yellow House(窓の反射、黄色い家)》(2001)が、4000から6000ドル(約58万~87万円)の予想価格に対し、3万1250ドル(約450万円)の値を付けている。 しかし、所属ギャラリーのアレクサンドルによれば、ドッドが制作する大型作品は毎年ほんの数点だという。同ギャラリーのフィル・アレクサンドルは、US版ARTnewsの取材にこう語った。 「彼女はキャリアのほとんどを、知られざる画家として過ごしてきたのです」