男になるのは、サッカーに区切りがついた瞬間――トランスジェンダーであることを公表した横山久美選手の目指すもの #性のギモン
もちろん、設備面での配慮は怠らない。たとえば高橋GMはシーズンに入る前、練習場のシャワーをカーテンでブース状に仕切る仕様に改装している。 「とはいえ、選手は湯郷温泉のほとんどの温泉に入らせてもらえるので、横山を含むほぼ全員、練習後は気の合った同士、行きたいお湯に行くことが多いですね」
横山効果が出始めた? チームに生まれる変化
ひとりだけ別格の選手が加入したことを、クラブの監督や選手たち現場サイドはどう受け止めているのだろうか。 「久美はサッカーが好きで、本気で勝ちたいから、本気で選手たちに向き合っている。だから特に厳しいということではないと思いますね。性別の問題について、世の中で騒がれているほどは、僕はあんまり意識したことはないです。久美はひとりのプレーヤーだし、ひとりの人間としか見ていないので」(谷口博志監督) 「久美のように心の性は男性、っていう選手たちを何人も見てきました。ああいうふうにオープンにしたかっただろう人もいたと思います。久美がオープンにしていることで、逆に周囲の選手たちにも抵抗がないんじゃないのかな、という気がします」(桂木泰子コーチ)
DF・内田好美は横山が新人だった頃、ユースチームからトップの練習に参加していた。 「今は高卒の子や私たちのレベルに下りてきて、問題点やアドバイスが伝わるように話をしてくれます」 練習後やオフでも横山とよく話すのが、FW・岸野早奈だ。 「私はBelleが強かった頃を知っていますが、今季は昔に戻ってきた雰囲気がありますね。ヨコさんは常にサッカーのことを考えている人です。練習のとき話していたことを、温泉で長風呂しながらみんなでまた話すのが日課になりました」
「男になる」以外、将来のことは考えていない
7月2日時点で、湯郷Belleはリーグ戦全18節中14試合を終えて8勝3分け3敗、勝ち点27で全10チーム中3位につけている。横山は20ゴールで得点ランキングトップに立つ。後半戦に入ってからは2度の逆転勝ちを含む5連勝中と、好調を維持している。 「アイツに、とにかく2年で1部に上げろよ、と言いました。ダメだったら契約延長だぞ、とも」 高橋GMはこう言ってニヤリとした。横山も、湯郷に対する恩返しとして「1部昇格を目ざす。自分は得点王を目標にします」と入団会見で宣言している。