男になるのは、サッカーに区切りがついた瞬間――トランスジェンダーであることを公表した横山久美選手の目指すもの #性のギモン
「性別に違和感のある選手は、ごく普通にいます」
昨年12月、三つぞろいのスーツに湯郷Belleのクラブカラーであるネイビーのネクタイを締め、横山は入団会見に臨んだ。帰ってきた理由を「自分はここでだけ、結果を残せていません」と切り出した。「地域リーグに降格していたとしても、ここに来ていたと思います」とも。 かつて所属した頃、クラブには2011年女子W杯初優勝チームの主力メンバーだった宮間あや選手らがおり、強豪チームとしのぎを削っていた。高卒新人だった横山は2年間で3ゴールしか決められず、結局ひとつ下のカテゴリーへと移籍する。その間、サッカーをやめて実家に戻ろうと幾度となく思ったという。 「トップのレベルは高校と比べものにならないほど高くて、ついていくのに必死でした。でも何よりも、あの頃の自分が“サッカー中心に生きていなかった”のがすべて。練習や試合はもちろん、普段の食事、睡眠、オフの過ごし方まで全部、サッカーにつながる。それを意識して行動できなかったら、そりゃ何も結果は出ないよなって、今ならわかります。当時は、先輩たちに何でこんなに怒られるんだろうって、マジでつらかった。でも、気にかけて可愛がってもらってたんですよね。今になってみると、ホントにありがたいなと思います」
横山の獲得に動いた高橋GMは、チームにもたらすインパクトを期待している。 「選手たちとよく喋るし、めちゃくちゃ怒るし、全力で褒める。課題があれば監督や僕にもすぐに言いに来る。1部リーグへの昇格、という目標を掲げて、今のところものすごくみんなを引っ張っているキャプテンですね」 遠征も多い団体競技だけに、チームで寝食を共にする機会は少なくない。性自認が男性の選手を迎え入れるという点で、クラブとして意識したことはないのだろうか。 「性別に違和感を抱く選手というのは、女子サッカーの世界では本当によくある話です。僕なんかは慣れてしまって、特別なケースだと身構えたりはしませんでした。横山のように公表も結婚もして振り切れているのは、むしろ気を使わずにすんでありがたいです」