男になるのは、サッカーに区切りがついた瞬間――トランスジェンダーであることを公表した横山久美選手の目指すもの #性のギモン
華麗なる経歴から弱小チームへ電撃移籍
女子サッカー選手としての横山のキャリアは華麗なものだ。 中学時代から東京都選抜や関東代表に選ばれ、さらにU-17女子W杯でも活躍した。 サッカーの強豪高校を卒業後、横山は当時トップリーグ(男子リーグのJ1に相当)に属していた湯郷Belleの一員となる。2年を過ごした後、移籍したAC長野パルセイロ・レディースでリーグ得点王となり、日本代表に選出されている。 2017年に1年間、ドイツ・フランクフルトに期限付き移籍。2019年には女子プロサッカーの最高峰と言われるアメリカに渡って3年間プレーし、リーグ優勝も経験した。 その間に湯郷Belle はなでしこリーグ1部から2部へ降格もした。女子リーグの再編を経て、なでしこ2部は男子リーグでいえばJ3に相当する位置付けとなり、昨シーズンはその最下位に。地域リーグとの入れ替え戦を経てギリギリのところで降格をまぬがれている。ここに、アメリカ帰りの横山が入団したのだ。 そのような、まさに“超格下”への電撃移籍が、2022年12月に発表された。
引退を先延ばし “腫れ物扱い”しないクラブへ
アメリカで3シーズンを過ごしたあと、横山は引退するか迷っていた。 「サッカー選手として、アメリカでプレーするというのが目標でした。それがかなって、しかもすごい充実した3年間を過ごして、年も年だしもういいかな、と……」 それを翻意させたのが、湯郷Belleからのオファーだった。 「シーズンが終わった頃に、お世話になった人たちから『まだできるでしょう』『やめる前に湯郷Belleでまた町を元気にしてよ』と言われて。以前からよく知っている湯郷の塚さん(塚本一郎会長)からも電話をいただきました。高橋寿輝GMはすぐに東京まで会いに来られた。帰国してサッカーを続けよう、それなら最後に湯郷でやりたい!と、気持ちが固まりましたね」
パートナーは同じ東京生まれで、地方暮らしの経験がない。もしも彼女がつらくなったら、単身赴任をする覚悟も固めている。 トップリーグのクラブからも移籍話はあった。高いレベルの選手たちと戦うことは魅力的だったが、戦術が固まっている中に、横山のような個性の強い選手が入っていくことは難しくもある。セクシュアリティーに対する先方の受け止め方に引っ掛かりもあった。 「クラブのほうから、自分がトランスジェンダーであることで、『誹謗中傷も絶対来るし、ファン、サポーターがどう受け止めるかも予想できないけれども、そこはどのように考えているんですか』と聞かれました。それで、自分は何も答えなかったです。そういう感じなら、こちらとしても大丈夫です、と。湯郷に来ることを決めたのは、ここはそういう、腫れ物扱いみたいな空気がほぼなかったことも一因です」