「今は、スランプかもしれないですね」――戸田恵梨香ロングインタビュー
“戸田恵梨香物語”が出回り、虚像を信じてしまう人がいる
10代から20代の前半までは、つねに「自分のイメージを覆したい」ともがきながら仕事をしていた。本来の自分と、世の中で一人歩きするイメージとのギャップに苦しんだこともあったという。慎重に言葉を選びながら、こう語った。 「あることないこと、いや、ないことがほとんどの“戸田恵梨香物語”が出回り、虚像を信じてしまう人がいる。私が『自分って本当はこういう人なんですよ』と語ったところで、『そうじゃないでしょ』って言われてしまう、どうしようもない現実があって。そこにとらわれていても仕方がないので……。ここ数年は、自分が『いいな』と思う作品に携わりたいという、作品に対する愛情が純粋に強くなっているので、私自身がどう見られたいかという思いはなくなりました」 近く公開される主演映画『母性』では、完璧な母親像に縛られ、娘からの愛に応えられない女性の半生を演じた。母性を持てず、娘を愛せない女性。その役柄に「共感できる部分がほとんどない」と苦笑する。自分に重なる部分がまったくない人物を演じるのは、難しいものなのだろうか。 「どんな役でも、演じることに難しさを感じることはないです。私生活を作品に引っ張られることもありません。ただ私の場合は、理解できないと体現ができない。理解するまでの時間が必要なんです。それには繊細な作業が必要で、今回の映画では、すごく頭を使いました」
「普段は完成した作品を客観的に見られることがほとんどなんですけど、『母性』はうまく客観的に見れなくて。自分の芝居は本当に大丈夫だったんだろうかという不安が強かった。でも、(原作者の)湊さんが喜んでくださっているというのを聞いて安心しました」 戸田はつねに、役柄を演じ切ることよりも、「作品を成立させること」を一番に考えているという。仕事の取り組み方を変化させたターニングポイントは、ドラマ『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』だ。それは「大きく飛べた」と感じられた、手応えのある仕事だった。 「それまでは、役を作る、役を生きるとはどういうことなのか、そもそも役者って何なんだろう?と、ずっと悩みながら探していたんですよね。そろそろ見えてきたかな、という頃『SPEC』に出合い、加瀬亮さんと共演することによって、自分の世界が広がりました。作品への向き合い方、アプローチの仕方、脚本を超えるとはどういうことか。自分の役者としての長所・短所を知り、たくさんのことを学びました」