乳がんか卵巣がんの人が血縁者にいたら「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」について知っておくべき!【更年期女性の医療知識アップデート講座】
ゲノム研究の進歩により、遺伝性のがんについてさまざまなことがわかってきた。なかでも「遺伝性乳がん卵巣がん」は、検査も治療法もかなり確立してきている。更年期世代にとって他人事ではない乳がん。血縁者にいる場合は、どうしたらいいか? 遺伝学的検査はどのように受けられるのか? 二人の専門家に詳しく聞いた。
乳がん患者全体の5%を占める「遺伝性乳がん」
遺伝子の研究が進み、今、遺伝性のがんについていろいろなことが明らかになっている。特定の遺伝子に、生まれつき変化を持っていることによって発症するがんの総称を「遺伝性のがん」という。 遺伝性乳がん卵巣がん(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)は、遺伝性のがんの種類のひとつだ。HBOCは、遺伝学的検査でBRCA1、あるいはBRCA2という遺伝子に変化(専門用語では病的バリアントという)を持っていることがわかると、診断できる。現在、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんなどのがん発症リスクが高いこともわかっている。HBOCの場合、70歳までに50%前後の確率で乳がんを発症すると言われている*。 * 一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)をご理解いただくために ver.2023_1」 BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子はそれぞれふたつ1組で存在していて、父親と母親からひとつずつ子どもが受け継いでいる。父親と母親のどちらかが、がんとの関連が強い変化(病的バリアント)を持っている場合、その変化が子どもに受け継がれる確率は、性別に関係なく50%になる。 BRCA1、BRCA2の遺伝子に変化があっても必ずしもがんを発症するとは限らない。しかし、例えばBRCA1遺伝子に変化があると、70歳までに乳がんを発症する確率は約70%、卵巣がんでは約40%となる。一般の人たちでは卵巣がんの発症率は約2%なので、大きくがん発症リスクが高いことがわかる。日本人の乳がん患者全体の5%には、この遺伝子に変化があることがわかっている。 遺伝性乳がんは、発症する年齢が30代~40代前半と若いことも特徴だ。トリプルネガティブ乳がん*や男性乳がん、卵巣がんを発症した人などは、BRCA1あるいはBRCA2遺伝子の変化を持っている可能性がある。また、男性も血縁者に乳がんの人が複数いる場合は、HBOCに注意が必要だ。HBOCの特徴となるチェックリスト<https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/breast_surgery/hboc/hboc_JOHBOC_2022_2.pdf>があるので、不安な方はチェックしてみて。 * 乳がんのタイプのひとつで、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)により増殖する性質を持たないなどの特徴がある。3つの陰性(エストロゲン受容体陰性、プロゲステロン受容体陰性、HER2陰性)を指してトリプルネガティブと呼ばれる。