「不安が大きくなる人」「ならない人」の根本的な差 転がせば転がすほど、悩みは重く大きくなる
■「ああ、イライラしているな」だけでいい 第一、人間ならば、イライラするのもクヨクヨするのも当然のこと。 喜怒哀楽によって大きく心が揺れるのも、また当然のことです。そうでなくては、生きる喜びも、人間としての成長も味わえません。感情は、人間が生きている証そのものです。 ただし、そうした感情に心が囚われ、余計な不安や心配を抱えるようでは、いけません。せめて感情の揺れの幅を小さく、一度揺れてもすぐにニュートラルな状態に戻すよう努めましょう。
努めるといっても、「放っておく」だけでいいのです。「放っておく」とはつまり、頭に思い浮かんだ邪念を無理に振り払おうとしないこと。心に浮かんできた感情や考えには触らず、そのままにしておきましょう。さまざまな邪念が頭に浮かんできても、そのまま「ああ、邪念が浮かんでいるな」と感じるだけでよしとします。 そのうちに、邪念が少しずつ薄れていくのに気がつくはずです。 例えて言うなら、私たちの心は、静かな水面です。そして一時の邪念は、水面に投じられる石にあたります。石は水面をかき乱し、たくさんの波紋をつくるでしょう。
このとき、波立つ水面を鎮めたいと思ったところで、人間にできることはありません。できるのは、ただ放っておくことだけ。しかし心配はいりません。もう間もなく、静かな水面が戻ってくるでしょう。それまで、ほんの少しの辛抱です。 ■「ありがとさん」を3回となえる ただし、黙って「放っておく」ことなどできそうにないときも、あります。 瞬間湯沸かし器のように「ムカッ!」ときて、今にも爆発寸前、そんな場面です。私自身、若いころはケンカ腰の相手をうまくあしらえず、怒りにまかせて相手の土俵にのぼってしまったことがありました。
そんなときはどうすればいいでしょうと、私が心から尊敬する高僧、板橋興宗禅師さんに尋ねたときのことです。「すぐに反応してはいけないよ」と禅師さん。そしてこう続けました。 「ありがとさん、ありがとさん、ありがとさんと、心のなかで唱えればいい」 よく「頭に血が上る」といいます。頭に血が上ると怒りが爆発してしまうのなら、腹にとどめておけばいい。そのためのおまじないが「ありがとさん、ありがとさん、ありがとさん」なのでしょう。
怒りをコントロールするためのトレーニングである「アンガーマネジメント」の理論にも「怒りの感情は6秒しか続かないので、6秒だけ我慢すれば、怒りがおさまる」とあります。 ムカッときたときは、「ありがとさん、ありがとさん。ありがとさん」と唱えながら、6秒だけこらえましょう。頭を空っぽにできるおまじないです。
枡野 俊明 :「禅の庭」庭園デザイナー、僧侶