未完の大器「チルドレン オブ ザ ディスコーダンス」13年目の“序章” 満身創痍での新作発表の理由
「アンブロ(UMBRO)」コラボの“ダブル・ダイヤモンド”ロゴや、セディショナリーズ(Seditionaries)を想起させるAマーク、ビンテージの「AKIRA」Tシャツの“健康優良不良少年だぜ”など、キャッチーなモチーフを差し込みながら、登場した37ルックの仕上がりは、これまでよりもどこか肩の力が抜けてクリーンな印象だ。理由は、素材使いだった。
今シーズンは、得意とする強いグラフィックに頼りすぎず、生地とうまくマッチさせて品のいいスタイルを意識した。これまでの強い色柄を自由にミックスするスタイルは、特に海外では“トレンドのラグジュアリー・ストリート系ブランド”とカテゴライズされるのが納得いかなかった。「トレンドに沿った服作りをしているわけではなく、志鎌英明という人間が作った服というのを証明したかった。自分の中にあるカルチャーやアイデンティティーをむき出しにするため、まずは生地が大切だと考えた」と奮起。ほとんどの生地をオリジナルで開発し、高級感を意識して、足して盛っていくクリエイションから、引いて際立たせるクリエイションにシフトした。
念願の海外ショー開催に向けて
変化の先に見据えるのは、海外でのショー開催だ。次回は25年1月に国内でショーを予定し、同年6月にはイタリアでのランウエイショーを目指す。イタリアでのショーは、志鎌デザイナーがコロナ禍から掲げてきた目標の一つである。20年にミラノ・メンズ・ファッション・ウイークにデジタルで参加し、想像以上の反響があった。イタリアでの取引先も増え、最も多い時期では卸先アカウント数の7割を海外店舗が占めていた。
「以降もミラノ・メンズ最終日にデジタルで参加し続けてきたが、例えばルック公開後に『ヴォーグ ランウェイ(VOGUE RUNWAY)』の取材を受けても、記事が出るのはパリ・メンズが終わる頃。海外バイヤーの買い付けのタイミングとはズレが徐々に生じていた。であればもっと早いタイミングでショーを開催し、世界中のメディアを通して発信してからパリで展示会を開く方がいい。今、自分たちにできるのはそれしかない」。コレクション制作をほんの数週間でも早めるのは、インディペンデントなレーベルにとっては地獄のような苦しみである。例え自身やチームが満身創痍でも、1年後のイタリアでのショーに向けてやり切るしかなかった。