ホイールベアリング交換の必需品。パイロットベアリングプーラーの仕組みと使い方
内輪にチャックを固定すればベアリングは気持ちよく抜けてくる
パイロットベアリングプーラーを使って圧入されたボールベアリングを引き抜く作業で、最も重要なのはベアリング内輪サイズにマッチしたチャックを選択することです。 先に説明した通り、ボールベアリングの内径は規格によってサイズが決まっており、φ11mmやφ14mmという寸法はありません。ですから、内径がφ10mmなら10mm用のチャック、φ17mmから17mm用チャックを使用します。 ここで若干迷うのは、内輪にチャックを挿入する際にサイズが合っていてもスムーズに入らない場合です。チャックの先端をよく見ると、実はツバが広がっています。このツバは内輪を反対側まで貫通した時に抜けにくくする「返し」となる部分で、そのため挿入時に引っかかりを感じるのです。 しかしこの時、内径φ17mmのベアリングに15mmのチャックを挿入するようにワンサイズ小さくすると、プッシュボルトを締め込んでチャックが拡張しても内輪の保持力が充分に確保できず、空振り状態で抜けないトラブルにつながります。 したがって、チャックを手で押さえただけではスムーズに内輪に入らなくても、双方のサイズが合っていれば、チャック根元を軽く叩いて挿入すると良いでしょう。また、返し部分が内輪の内側にある状態でプッシュボルトを締めても、チャックの接触面積が不十分で引き抜けません。チャックが内輪を貫通し、すぼまった返しが広がった手応えを感じた時点で、プッシュボルトを締め付けることでチャックが内輪に密着します。 ベアリング内輪にチャックがしっかり密着したら、ベアリングホルダーやその他の部分にプーラー本体の足を掛け、センターボルトをプッシュボルトにある程度ねじ込み、ボルトの途中にあるナットを締めます。センターボルトを回り止めした状態でナットを締めると、センターボルト先端のチャックが保持したベアリングが抜けてきます。 この工程で注意すべきは、センターボルトを支える横柱とチャック(プッシュボルト)のクリアランスです。プーラー本体の門形の足の着地点の高さによっては、ベアリングが抜ける前にチャックが横柱に当たってしまうことがあります。 こうなるとベアリングは抜けないので、本体をセットする際の足の着地位置を見当しなくてはなりません。足をどこにおいてもチャックと横柱の隙間が不足するようなら、足の下にソケットレンチのソケットを入れて高さを稼ぐのも有効です。ただしその場合、センターボルト引き上げ中に足が倒れないよう安定を確保することと、足が左右で傾かないように高さが揃えることが重要です。 パイロットベアリングプーラーは軸方向に大きな力を加えながら内輪を引き上げます。そのためボールが転がる軌道面に打痕や傷が付く恐れがあるため、一度取り外したベアリングは再使用せず新品に交換するのが原則です。 潤滑不良やサビなどで交換する場合はそもそも再使用することは無いと思いますが、ホイールを再塗装する際に性能面では問題なくても一時的に取り外したい、ということがあるかもしれません。しかし想定外の方向から力を加えて引き抜いているため、新品ベアリングに交換することをおすすめします。 ハウジングに圧入されたベアリングを取り外す際は、ハウジングにダメージを与えないことが何より重要です。ベアリングを無理にこじってハウジングを変形させてしまえば、次に組み付けるベアリングが本来の性能を発揮できない可能性もあります。そんなリスクを回避するためにも、パイロットベアリングプーラーを正しく活用しましょう。 【POINT】 ▶ポイント1・ベアリングは軸に圧入して使用する場合と、ハウジングに圧入して使用する場合がある ▶ポイント2・ハウジングに圧入されたベアリングを取り外すためにパイロットベアリングプーラーは、ベアリング内輪にセットするチャックが重要 ▶ポイント3・ベアリング内径サイズに適合したチャックを使用することで、ハウジングを傷めることなくベアリングを引き抜くことができる
栗田晃