ホイールベアリング交換の必需品。パイロットベアリングプーラーの仕組みと使い方
ベアリングプーラーの要はベアリング内輪の内径サイズに応じたチャック
行き止まりのハウジングに圧入されたボールベアリングを取り外すための専用工具であるパイロットベアリングプーラーは「内輪を内側からグッと掴んで引き上げる」という動作で機能します。 ホイールベアリングとアクスルシャフトの関係のように、シャフトが内輪の内側を貫通する=内輪内径よりシャフト直径が細い場合は、内輪の内側を掴むことはできません。そうはいっても、内輪内径より太いシャフトはそもそも内輪を通りません。この板挟み状態を切り抜けるため、内輪に挿入する「チャック」と呼ばれる部品の直径が僅かに拡張するように設計されているのがパイロットベアリングプーラーの最大の特徴です。 チャックは先端部分から根元に向かって十字の切れ込みが入っていて、根元から先端に「プッシュボルト」をねじ込みます。プッシュボルトの先端はテーパー形状で、ねじ込むに従ってチャック先端を外側に押し広げていきます。それがベアリング内輪に押しつけられることで固定され、プッシュボルトと一体となったチャックを引っ張り上げることでハウジングに圧入されたベアリングが抜けてくるという仕組みです。 ベアリング内輪にチャックをしっかり押しつけるには、双方の寸法差が小さいほどベターです。寸法差が大きいほどチャック外径の変化量が大きくなり、ベアリング内輪に押しつけるために大きな力が必要になります。裏を返せば抜けやすいということです。 このため、セット工具として販売されているパイロットベアリングプーラーは、ボールベアリングの内径に応じたサイズのチャックが複数用意されているのが一般的です。 ボールベアリングの寸法規格は4桁の数字で示されており、十の位と一の位の2桁が内径寸法を表します。この寸法は実際の内径ではなく記号で、00なら内径φ10mm、01はφ12mm、02はφ15mm、03はφ17mm、04はφ20mm……となっています。 当記事で使用しているパイロットベアリングプーラーセット、は工具ショップアストロプロダクツの製品で、下はφ8mmから最大φ35mmまで10個のチャックが入っています。セットによってはチャックのバリエーションがこれより少ない製品もあります。 チャックの入り組みがどの程度であれば足りるかは、作業内容によって変わるため一概には言えません。ソケットレンチセットのソケットが19mmまでで良いのか、24mmまで欲しいのかの違いのようなものです。 ただ差込角が同じなら、メーカーやブランドが違っていてもソケットは後から買い足せるのに対して、パイロットベアリングプーラーのチャックは単品で購入できるとは限りません。 アストロプロダクツの製品例では、最大チャックサイズφ25mmのセットもあります。しかし後に紹介する作業例で使用したスプロケットハブに圧入されたベアリング内径はφ30mm立ったので、最大φ25mmのセットでは取り外すことができません。「大は小を兼ねる」の言葉通り、チャックの入り組みも多い方がより多様な作業に対応できることは確かです。