〈激写〉221年ぶりに大量発生した何十億匹もの周期ゼミ、ナショジオの写真家がとらえた
周期ゼミが脱皮し、空を埋め尽くしてゆく他では見られない一大スペクタクル、米国イリノイ州
米国の中西部と南東部で今、耳をつんざくような音が響いている。17年周期ゼミと13年周期ゼミが221年ぶりに同時に姿を現したのだ。地上に出た何十億匹という周期ゼミの目的は交尾をすることであり、そのために木にとまってジージーあるいはカチカチと鳴き続ける。ナショナル ジオグラフィックの写真家キース・ラジンスキー氏はイリノイ州中央部で数日間を過ごし、周期ゼミが脱皮し、空を埋め尽くしてゆく他では見られない一大スペクタクルをとらえた。 ギャラリー:激写! 221年ぶりに大量発生した何十億匹もの周期ゼミ 写真9点 米ミズーリ大学の昆虫学者で園芸分野の専門家であるタマラ・リオール氏(通称「虫博士」)によれば、その騒音は100デシベルに達する可能性があり、「ジェットエンジンと同じくらいのレベル」だという。 ラジンスキー氏は、脱皮して成虫になる瞬間から木の上で交尾相手を探すところまで、周期ゼミの驚くべき光景をとらえた。しかし、実際のところどんな生態なのだろう? また、周期ゼミが短い生涯で直面する最大の脅威は何だろう? 周期ゼミに関するいくつかの重要な事実を紹介しよう。 米国には周期ゼミの集団が15群認められている。今年は、1803年以来初めて「ブルードXIII(13)」と「ブルードXIX(19)」という群れが同時に出現した。1803年というと、米国大統領トーマス・ジェファーソンがフランスからミシシッピ以西を含むルイジアナを買収した年だ。しかし、それぞれの集団は地理的に明確に分かれており、重なり合うことはほとんどない。 周期ゼミの群れではみな同じ時期に成虫になり、一定の間隔で現れる。毎年夏に出現する一年性のセミとは異なり、周期ゼミは13年あるいは17年ごとにしか現れない。専門家によると、周期ゼミは地下で樹木の根に流れる液体の季節的な脈動を数え、土壌の温度が適切な温度(18℃前後)に達するのを待ち、空へと飛び出すそうだ。 セミにとって、数の多さは安全につながる。周期ゼミは、一年性のセミのように鳥やモグラなどの捕食者から素早く逃げる回避行動を発達させる進化を遂げていない。しかし、出現スケジュールを同期させ、非常に密集した集団(約4046平方メートルに150万匹が群がることもある)を作ることにより、生存率を高め、個々の周期ゼミのリスクをほぼゼロに近づける。 鳴き声がうるさくてイライラする? おそらくそれはオスのセミの鳴き声だ。セミの短い成虫期間のほとんどは、交尾相手を探すことに費やされる。オスは腹部の膜を振動させて耳をつんざくような音を発し、メスはカチカチと音を立てて応答する。 一部のセミは、死ぬまで交尾に駆り立てる「セックスゾンビ菌」と呼ばれる真菌に感染している。セミが地中から出現するときに待ち受ける脅威の一つが、内側から体を食べ尽くすこの寄生性の真菌「マッソスポラ・キカディナ(Massospora cicadina)」だ。この真菌がセミの体を乗っ取り、繁殖時に交尾相手に感染を広げるために、セミをかろうじて生きた状態に保つのだ。
文=Amy McKeever/訳=杉元拓斗