「ある日突然、会社に行けなくなる…」女性が直面する深刻なメンタル不調の背景に潜む「年収の壁問題」
■古い価値観でできた制度を取り払うことが重要 この課題に対処するためにも、性別における役割分担意識を改革していくことが重要です。この点に関して政府は、第5次男女共同参画基本計画の中で教育やメディア等を通じて意識改革を進めています。 また、現在注目を浴びる「年収の壁」の改革案も燃え尽き症候群の緩和・解消につながる可能性があります。もし国民民主党が提案するように年収の壁が103万円から178万円に引き上げられた場合、パートタイムで働く労働者の労働時間が伸びる可能性があります。これによって人手不足の解消が進めば、職場にも余裕が生まれ、燃え尽き症候群の予防になると考えられます。 ただし、ここでの注意点は、いま議論されている改革案でも「男性=稼ぎ頭/女性=家計補助」という価値観が変わっていないという点です。年収の壁の存在自体が「男性=稼ぎ頭/女性=家計補助」という価値観を温存する形となっているのです。 年収の壁や企業の配偶者手当などの昭和の価値観でできた制度を取り払うことによって、初めて働くことや家事・育児に対する昭和な価値観を解消することができるのではないでしょうか。女性の社会進出を促進しようとするなら、働くことが得になる制度に変えていかなければ実現できないはずです。 <参考文献> (*1)Artz, B., Kaya, I. & Kaya, O. Gender role perspectives and job burnout. Rev Econ Household 20, 447–470 (2022). ---------- 佐藤 一磨(さとう・かずま) 拓殖大学政経学部教授 1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。 ----------
拓殖大学政経学部教授 佐藤 一磨