「ある日突然、会社に行けなくなる…」女性が直面する深刻なメンタル不調の背景に潜む「年収の壁問題」
■伝統的な家庭観を持つ女性ほど燃え尽き症候群になりやすい アーツ教授らは、4173人のアメリカ人男女のデータを用い、この点を分析しました。なお、燃え尽き症候群の重症度は、MBI(Maslach Burnout Inventory)という指標を用いています。この指標は、社会心理学者のクリスティーナ・マスラック教授を中心とする研究グループによって開発されたものであり、燃え尽き症候群の状態を見る上での代表的な指標です。 実際の分析の結果、女性のほうが男性よりも燃え尽き症候群になりやすいだけでなく、やはり伝統的な家庭観を持つ女性ほど、燃え尽き症候群の症状が重くなることが明らかになりました。 社会全体に残る性別による役割負担の違いが女性に負担感を与え、それが悪い結果となって出てきているといえるでしょう。 ちなみに男性の結果をみると、伝統的な家庭観の有無は燃え尽き症候群と全く関係を持っていませんでした。男性の場合、依然として仕事がメインであり、伝統的な家庭観の有無によってそこまで家事・育児の負担が影響を受けない可能性があると考えられます。 ■日本は他国より性別による役割分担が大きい これまで見てきたとおり、女性ほど燃え尽き症候群になりやすく、この背景には社会に残る性別での役割分担が影響しているといえます。ただし、これはアメリカでの話です。 日本の場合、性別での役割分担は、明らかにアメリカよりも強く残っています。 例えば、2022年8月に総務省が公表した「令和2年男女共同参画白書」によれば、6歳未満の子どもを持つ世帯における妻の家事・育児時間は、平均で7時間28分でした。これに対して男性の値は、平均で1時間54分であり、男女の差は約3.9倍です。また、日本の男女間賃金格差は先進国の中でも大きく、世界経済フォーラムが発表した2024年のジェンダーギャップ指数も日本の順位は146カ国中118位でした。ちなみに同年におけるアメリカの順位は、43位です。 このように日本では男女差が大きく、このままの状態で女性の社会進出がさらに進められれば、燃え尽き症候群となってしまう女性も増えてしまうのではないでしょうか。 実際にデロイトトーマツが2022年に発表した「Women @ Work 2022: A Global Outlook」を見ると、日本のフルタイムで働く女性のうち燃え尽きたと感じる女性の割合は50%と、他国よりもやや高く、それが退職を考える原因にもなっています。 現在、日本では政策的に女性の社会進出を推し進めていますが、性別における役割分担が残ったままでは、弊害を生んでしまう恐れがあるでしょう。