「静岡リニア再始動」に立ち込める暗雲。南アルプストンネルの"見本"も崩落!
そもそも、なぜこの考えがJR東海に提示されたのか。囲み取材の後、県の石川英寛(ひでのり)政策推進担当部長に尋ねると、以下の回答を得た。 「NPは、22年12月、カナダで開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で新たな国際目標として設定されました。昨年3月には『地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案』が閣議決定され、通常国会にも法案が提出され、今年4月19日に同法が公布されました。 つまり、自治体も動かなければならない。そういう根拠があって、私たちはリニア計画においてNPをJR東海に提案できたのです」 調べてみたところ、NPの概念は日本では23年に打ち出されていた。 静岡県とは別に、国土交通省でも静岡リニア問題をJR東海と有識者とが話し合う「有識者会議」が開催されていた(20年4月から23年11月まで)。その昨年末の報告書にはJR東海への提言が書かれている。 「回避・低減措置を講じてもなお残る沢の生態系の損失には、代償措置、ならびに新たな生物生息環境の創出を講じる」 その具体例のひとつとして書かれたのが「トンネル湧水を活用して湧水生態系を創出する」ことだ。果たして、そんなことが可能なのだろうか......。 さらに、県とは別に、静岡市でもJR東海とリニア問題を話し合う「中央新幹線建設事業影響評価協議会」が15年から開催されている。今年4月9日、難波喬司(たかし)市長は同会議でこう発言した。 「どんなに回避や低減を図っても、沢の流量減少は避けられない。だから、代償措置はもう初めからやらないといけない」 県とは正反対の考えだが、この協議会でも学識者委員として名を連ねる竹門氏はNPを強調した。 つまりNPの考えは、国連、国(有識者会議、立法)、そして静岡市と静岡県へと流れてきたものなのだ。連絡会議を傍聴する県民の村野雪さんは、「静岡県で提案されたのは、既定路線的なものだ」と読み解いている。 ■成功事例は失敗事例だった! 一方で、JR東海が「回避・低減」を考えていないわけではない。減渇水を防ぐため、地盤を固める薬液注入の実施を公言している(これに対して「それだけしかないのか」との批判もあるが)。