「静岡リニア再始動」に立ち込める暗雲。南アルプストンネルの"見本"も崩落!
現在、主に水問題を協議する「地質構造・水資源部会専門部会」と生態系について協議する「生物多様性部会専門部会」(以下、生物部会)で構成される。県は19年にJR東海と話し合うべき47項目を設定したが、24年9月時点でまだ28項目が残る。これらが解決しないうちの工事着工はありえない。 しかし、知事選のさなかに大湫町の水枯れが報道されると、風向きは変わる。市民団体「リニアを争点にする会」は、知事候補者6人に「リニアを争点にする公開質問状」を送付。すると、鈴木氏は「連絡会議は継続」と明快に回答したのだった。 知事選の結果、5月26日に鈴木新知事が誕生。鈴木知事は就任後初の記者会見でリニア問題について「最後は政治的決断で」と発言し、7月10日には大井川上流部でJR東海の工事予定地を視察、「工事を進めるため、スピード感をもって対話を進めたい」と発言した。 大井川が毎秒2t減流すれば、それは大井川を水源とする8市2町の62万人分の水が失われることを意味する。川勝前知事は、しばしば8市2町の首長との意見交換会を実施したが、鈴木知事もこれを踏襲し、7月23日に意見交換会を開催した。 一部報道によれば、首長たちからは「あまりにスピード感があって、流域の市町はついていけない」との声も上がり、囲み取材を行なったフリーの金丸宗記者も、「首長の多くは知事に対して、『走るなら、その都度情報を提供してほしい』と要請した」と報告している。鈴木知事がリニア推進に前のめりなことが伝わってくる。 とはいえ、鈴木知事のアンケートへの回答どおり、連絡会議はそのまま維持された。知事の姿勢がどうあれ、連絡会議という枠組みが機能している限り、知事の独断での着工許可はないとみていいだろう。 ■水枯れの代わりに花を植える!? だが、そんな連絡会議にも不穏な動きが出てきている。 川勝前知事が退職届を提出した直後の4月12日。生物部会で新たに委員に就任した竹門康弘・大阪公立大学国際基幹教育機構客員研究員が「ネイチャーポジティブ」(以下、NP)という新たな概念を紹介した。失われる自然の代わりに、それと"同等以上"の新たな自然を人間が創出するという考えだ。 静岡県でのリニア工事によって「失われる自然」とは、「県北部の南アルプスで、トンネル掘削現場周辺の複数の沢で流量が最大70%減るという予測」「南アルプスでは、トンネル掘削により地下水が最大380mも低下するとの予測」などだ。 これは、沢が枯れ、生態系が失われ、地下水の低下で南アルプスのあちこちに散在する高山植物の群落(会議での通称「お花畑」)が消える可能性を意味する。