「静岡リニア再始動」に立ち込める暗雲。南アルプストンネルの"見本"も崩落!
だが、この薬液注入の効力を疑わざるをえない出来事が起こった。 JR東海と学識者が協議する岐阜県の常設機関「環境影響評価審査会・地盤委員会」で、JR東海は、減渇水を防ぐ薬液注入の成功例として鹿児島県の北薩トンネル(4850m。18年開通)の工事を紹介し、それを踏襲する意図を示した。 ところが今年7月下旬にこの北薩トンネルで湧水が発生し、土砂がトンネルを埋める事故が発生したのだ。薬液注入の成功事例とされた工事は、大失敗だったのだ。 しかも、すでに大湫町では5月20日から地下水位を回復させるための薬液注入が行なわれているが、9月上旬でも改善の兆しは見られない。 南アルプストンネルが位置する山梨~静岡県境付近には、長さ800mとも予想される、地下水が高圧で封じ込められている破砕帯(岩盤が割り砕かれて多くの隙間を持ち、通常の地盤に比べて軟弱であるとされる)がある。北薩トンネルの失敗を見ても、薬液注入でここの地下水流出が食い止められるとは、想像し難い。 連絡会議を毎回オンライン傍聴している高木信二さん(仮名)は「(工事で)沢は枯れますよ。その枯渇についてNPは可能なの? 『同等以上』の『お花畑』や『湧水生態系』はありえない。NPは、ヘタすると、JR東海に初めから回避や低減を放棄させる道具にならないでしょうか」と懸念を抱く。 ただし、この10年間しっかりとJR東海と対峙してきた県と連絡会議が、いきなり違う姿勢になることも考えられない。 森副知事は「まずは回避と低減の徹底を」と念を押しており、専門部会もまずはすべての問題点や課題を洗い出そうという基本姿勢は崩していない。NPの提案を受けたJR東海が、次回の生物部会(9月10日現在、日程未定)でどういうプランを出すか、注視していくしかない。 取材・文・撮影/樫田秀樹