「良い商品」だけでは「届かない」。中川政七商店のマーケターが語る「ブランディングに大切な視点」
ちょうどその頃、中川政七商店が大規模な採用を始めたことを、中田氏は知る。興味をもってオンラインイベントを観たところ、独立研究者であり著作家の山口周氏が、中川政七商店の社外取締役として登壇していた。実は、中田氏は山口周氏の本を愛読していた。その偶然が最後のきっかけとなり、中田氏は中川政七商店への入社を決めた。
ブランディングの実現と業務の簡略化、どちらも両立させる
■ [ルール3] トレードオフではなくトレードオン 中田氏は中川政七商店でコミュニケーションデザイン室に所属し、広告の運用やECチームの戦略立案、全社横断のシステム導入などに関わる。現在メインで取り組んでいるのは『MONJU』というブランディングツールのプロジェクトマネージャーの仕事だ。 MONJUは中川政七商店が2社と共同開発したブランディングのためのツールだ。利用する企業は可視化されたユーザーデータから顧客が見た自社の姿を把握する。そして、ブランドが目指すべき姿とのずれを検証し、顧客の見ている姿と自社が目指す姿が重なるよう自社をアップグレードしていくのだ。 ┌────────── MONJUのプロジェクトで意識しているのはトレードオン、つまり相反するものを両方実現することです。たとえば、ユニクロが『高品質と低価格を両立させた』ように、それまで相反すると考えられていた質と価格を実現したからこそ支持されています。これをブランディングに置き換えるなら、ブランディングの実現と、業務の簡略化の両立を図ることです。MONJUを活用すれば、なるべくコストや工数を使わずに自社ブランディングを実現できる。そんなツールに育てていきたいと考えています(中田氏) └────────── MONJUのプロジェクトにおいて、中田氏はブランディング担当者である自分なら、どんな機能やUIを求めるかという視点を大事にしている。この考えは中川政七商店の「自分起点」のものづくりに基づいている。中川政七商店はユーザーが求めているものは何かという「ユーザー視点」よりも、自分たちが欲しいものを起点に全国約800の工芸メーカーと共にものづくりを行っている。 ユーザー起点の商品づくりでは多数にいいと思われる中央値の商品となりやすく、独自性が生まれにくい。常に中川政七商店がつくる意味を考えているのだ。