中国で相次ぐ「無敵の人」政府が恐れる“爆発の芽”。豊かな頃から一変、経済不安が渦巻く社会に
■不動産を買わないと損をする 物価が上がり続ける国で、不動産は真っ先にやるべき投資になる。1990年代にタダみたいな価格で不動産を手に入れた人たちは、その後の上昇で味をしめ、2軒目、3軒目と買えるだけ買った。 2013年、筆者の勤めていた大学でキャンパスが一部移転することになった。同僚の1人が移転先に建ったマンションを購入したので、同僚8人で遊びに行った。 それから2カ月後、8人のうち2人がそのマンションの別の部屋を購入したと聞いてびっくり仰天した。2人とも自分たちが住む家は別にあり、「田舎の親に住んでもらう」と話していた。
今がいちばん安いのだから、今買わないと損をする。そう言いたげだった。 一方、バブル崩壊を経験した日本人は、急ピッチで上昇を続けていると、いつか相場が崩れると考えてしまう。 中国に長く住んでいる日本人からは、「昔、中国人に『日本人ならお金あるでしょ。マンション買いなよ』と言われたけど、不動産投資ってハイリスクだから二の足を踏んでいた。だけどみるみるうちに価格が上がって手が届かなくなり、買っておけばよかったと後悔した」とよく聞いた。
2010年代前半、中東で大規模な民主化運動「アラブの春」が起きたのを機に、日本のマスコミ関係者から「共産党の一党独裁体制に国民は不満を抱かないのか」と聞かれるようになった。 中東の民主化運動が自国に波及するのを恐れたのだろう。中国政府は以降、メディアを一層厳しく監視・統制するようになった。 Googleは検閲を理由に中国から撤退したし、LINEもある日突然使えなくなった。共産党から見て都合の悪い情報を遮断し、テクノロジーを駆使して国民の生活を監視する。自由を制限された国民は不満を抱かないのか、暴発しないのか。数多くの日本人にそんな疑問をぶつけられた。
身の回りに中国の悪口を言う中国人はたくさんいた。医療制度、教育制度は不公平に満ち、「富二代、貧二代」(金持ちの子どもは金持ちで、貧乏人の子どもは貧乏人)という言葉が流行るなど、格差の固定化も問題になっていた。 しかし社会への不満が政権批判につながるかというと、そういうわけでもないところが、日本と大きく違う。中国人には与党野党の選択肢がない。選挙もない。海外事情に詳しいごく一部のエリートはともかく、庶民レベルだと選択肢がないなら、その是非は考えないものなのだ。