中国で相次ぐ「無敵の人」政府が恐れる“爆発の芽”。豊かな頃から一変、経済不安が渦巻く社会に
何よりも経済が成長し、頑張り次第で生活が豊かになると期待が持てれば、人は自分のキャリアアップに集中する。普通に働いているだけで給料がどんどん上がる環境に身を置いて、自分自身も中国人の気持ちがよくわかった。 ■「勉強をすれば金持ちになれる」 そもそも筆者がなぜ日本を出たかというと、やっとの思いで正社員になっても給料が増えない、長時間労働前提で子育てと仕事の両立もしにくいなど、努力しても将来がよくなるという希望が持てなかったからだった。
勤め先の大学の同僚たちは「勉強を頑張れば金持ちになれる」と学生たちに口癖のように言っていた。 筆者は上から下までファストファッションの衣類を身に着けていたのに、中国人の同僚はレクサスに乗って通勤したり、日本で購入した数十万円の毛皮のコートを着て教壇に立った。 「勉強を頑張ったらこういう暮らしができるということも示さないといけない」 中国は2010年、GDPで日本を抜いて世界2位に浮上した。「経済的に豊かになる」ことが共通の目標で、それはほとんどの人にとって実現可能に思えた。格差があっても、1人ひとりが過去の自分に比べて「より豊かになる」道筋が示されていた。
100人超の学生たちに日本のバブル経済について説明し、「中国経済にバブルの危険はあると思うか」をテーマにレポートを書いてもらったことがある。見解はさまざまだったが、少なくない学生が「バブルが生じたとしても政府が解決する」と記した。 氷河期世代以下の日本人には想像がつきにくいだろうが、成長率が8%前後で推移し、不動産価格が上昇を続ける国は、政府の求心力が高く、多くの人は政治という面倒事を他人に任せ、多少の不自由も受け入れることを選択する。日本の高度経済成長時代もこんなに単純な社会だったのだろうか、と思わずにはいられなかった。
アラブの春は民主化を求める運動だったが、一部の国家が賃金アップや給付金によってデモを鎮静化させたことからわかるように、反政府運動は貧困層の困窮や若者の高い失業率という経済不安で加速するものなのだ。 ■「無敵の人」による事件が相次ぐ 一方で現在の中国の状況を見てみると、中国恒大集団のデフォルト危機が表面化して3年が経った。同社は今も存続しているが、政府が救済を渋ったこともあって、危機は業界全体に広がり、景気をじんわりと冷やしていった。