避難所運営になぜ女性が不足しているのか――性トラブルや健康被害を減らすためにできること #災害に備える
「減災と男女共同参画 研修推進センター」で共同代表を務める浅野幸子さんもこう言う。 「自治会や町内会をベースとした自主防災会のリーダーが運営に携わることが多く、男性が中心です。防災指導は消防が担っていますから、力仕事のイメージも大きい。しかし、避難所ではケアの問題がとても大きいのです」 避難所でついたてがなく、着替えなどを含むプライバシーが守られていないケースがしばしば問題視されている。東日本大震災でも、「地域の人々は家族だからついたてはいらない」というリーダーの方針に、周囲の人々が反対できなかった避難所があった。地域の人間関係が運営に影響する。 松川さんによれば、避難所の女性リーダーの割合など、地域の防災組織にどのくらい女性が関わっているか、現状は把握できていないという。 では、地域の防災計画を決める地方公共団体の防災会議はどうか。内閣府男女共同参画局は、防災会議の女性委員の割合を3割以上にすることを目標にしている。2023年4月1日時点で、女性の割合は都道府県防災会議で21. 8%、市区町村防災会議で10. 8%。女性委員が一人もいない市区町村防災会議の割合は、全国で 23.8%におよぶ。
防災会議の女性委員比率が高いほうが、プライバシーの確保、健康や栄養状態、心のケア、ペット対策など、さまざまな観点について考慮されているという調査結果がある。「女性委員がゼロ」の地域は早期に女性を登用することが望まれる。
女性の視点を取り入れるべく、独自に取り組んでいる自治体もあると浅野さんは言う。 「例えば千葉市は、平常時から地域の町内会、自治会、自主防災組織などが一体となった『避難所運営委員会』を立ち上げ、そこに女性を増やしています。自治会や町内会で指導的役割を担うのは負担が大きいかもしれませんが、運営委員として研修に参加するのであれば、そう大変ではないでしょう。徐々に運営委員の女性が増え、現在は全市平均で約3割となっています」 浅野さんによれば、2016年に起きた熊本地震の前後に意識の変化があったという。2015年に国連防災世界会議が仙台で開催され、2016年に内閣府が避難所運営ガイドラインを出した。メディアでも女性の視点の必要性が積極的に取り上げられるようになり、行政の意識も変わってきたが、課題は山積しているという。 「2020年には改訂版の『男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン』も出ていますが、行政は縦割りなので共有が容易ではなく、ガイドラインの情報が行き渡っていないという課題がありますね」 浅野さんはこう続ける。 「女性は、家族のニーズが満たされないと、自分自身の問題を声に出せない場合も多いのです。あなたが困っていることは他の人も困っているから、声を上げていい。一人では難しいなと思ったら、周りの人に話してみる。するときっと共通点が見つかると思うので、支援者やリーダーに伝えましょう。支援者やリーダーは女性の声に耳を傾け、一緒に意思決定をしていきましょう。そういうことを繰り返し伝えていかなければならないと思っています」