頭部を剣で突かれた遺体は、衣服を剥がれさらしものに…!遺骨が物語る「イングランド王が受けた屈辱」と「深まる謎」
3人の親がいる子ども!?
それでは、歴史の研究において、男系、女系のどちらが追跡しやすいといわれているのだろうか? 一般には男系のほうが、称号があることで追いやすいといわれている。一方の女系は、結婚後に名前が変わるなど、正確な家系をたどりにくい事情があるからだ。 ところが、男系には「父子関係」がわかりにくい場合がある。他家から養子をとって家督を継いだ場合があるからである。母子関係は比較的はっきりしているので、その意味では間違いが起きにくい。 「3人の親がいる子ども」の話を聞いたことがあるだろうか? 奇っ怪な話だが、“実在”しうるのだ。謎解きのカギはミトコンドリアDNAが握っている。 前述のように、同じ母親から生まれる子どもには、すべて同じミトコンドリアDNAが受け継がれる。このため、ミトコンドリアDNAに異常があって、ミトコンドリア病*の症状が出ている母親の子どもはみな、母親と同じ病を患うことになる。 この厄介な遺伝病を治療するための唯一の方法が「核移植」である(図「核移植による「親が3人いる子ども!?」」)。 まず、両親の受精卵から細胞核だけを抜く(これを「核A」とする。この操作で、細胞質にあった異常なミトコンドリアは取り除かれる)。次に、正常なミトコンドリアをもつ他の女性から卵子の提供を受けて、この卵子からも細胞核を取り除く。 核を取り除いた提供卵子に核Aを注入すれば、両親の細胞核に含まれるDNAと、卵子提供者の正常なミトコンドリアをもつ卵が得られる。こうして得られた卵を母親の子宮に戻せば、先天的なミトコンドリア病をもたない子どもが生まれる。 *ミトコンドリア病:慢性進行性外眼筋麻痺症候群(CPEO)、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作 症候群(MELAS)など、ミトコンドリアの働きが低下することが原因でおこる病気の総称。好発年齢やあきらかな性差は認められない。厚生労働省の指定難病。 しかし、よく考えてみると、この子は3種類のDNAをもっていることになる。両親からのDNAに加え、卵子提供者に由来するミトコンドリアDNAがあるからだ。その結果、「親が3人いる!?」ということになってしまうのだ。 単なる絵空事ではなく、実際に、この核移植が認められている国があることから、「3人の親がいる子ども」はかなりセンセーショナルに報道された。 ただし、この問題の核心部分は解決ずみであるとする考え方もある。このようなかたちでの提供卵は、移植臓器と同じ扱いを受けるため、現在のところ、倫理的な問題はないとされているのだ。 「おかしいじゃないか」と感じる人もいるだろう。 臓器提供と同様にとらえる考え方の根拠としては、ミトコンドリアDNAに37個の遺伝子しか存在しないことがある。現実的に、無視できる量だからである。 心臓移植や生体肝移植、あるいは輸血を受けた人の体内にも、それらの提供者に由来するDNAが含まれることになるが、これをもって「3人以上の親がいる」とはいわない。それと同じ、というとらえ方なのである。 さて、このようにミトコンドリアDNAは、母親のもつものがすべての子どもに伝わっていく。 この現象は、子どもの性別には左右されないが、「母親から娘」という関係に注目して世代を超えて追いかけていくことで、その家系図が正確であれば、必ず同じミトコンドリアDNAが見つかるはずである! 遺伝子を受け継ぐ系統が絶たれたかに見えたリチャード3世の問題にも、打開策が見えてきたのである。 さて、リチャード3世のミトコンドリアDNAを受け継ぐ女系子孫は、見つかるのだろうか? 稿をあらためて、詳しくご説明したい。 * * * リチャード3世の女系子孫は、見つかったのでしょうか? 系図による追跡、そして鑑定への経緯をご紹介する次回は、こちらから。(こちらのリンクが無効な場合は、下の【関連記事】よりご覧ください。 王家の遺伝子――DNAが解き明かした世界史の謎
石浦 章一(東京大学名誉教授・同志社大学特別客員教授)