西村宏堂さんカップルが見つめる、同性婚が認められる未来
同性婚の法制化に向けて、次のステップへ進むことが大切
2019年2月14日以降、「結婚の自由をすべての人に」訴訟が日本各地で起こされ、同性婚を認めない現行法は「違憲」とする判決が次々に示されている。ゆっくりとではあるが、日本の司法は動き始めている。ふたりはこうした現状をどのように見つめているのだろうか。 「司法が違憲判決を下していること自体は進歩的ですし、希望を感じますが、一方で政府の動きは鈍いように思います。早く次のステップに進まない限り、真の意味での変化は期待できないのではないでしょうか」(フアンさん) 「じつは、私は結婚に対してあまり良い印象を持っていませんでした。というのも、日本では独身であることに劣等感を感じさせるような風潮があるからです。しかし、パートナーと性別が同じという理由だけで婚姻の平等が認められない状況は、やはり問題だと思います。 同性婚に関する世論調査*では、70%以上の人が認めるべきだと回答しています。国の制度を変えるためには、有権者が選挙で投票することが大事なんじゃないでしょうか。日本の若者の投票率の低さは周知の通りですが、例えばオンライン投票を採用したり、YouTubeで候補者の公式紹介動画がまとめて見られるようになったり、誰もが投票しやすい環境づくりが進むといいなと思います」(宏堂さん) *2023年2月に実施された朝日新聞社による全国世論調査。
「いろんな人がいていい」という価値観が広がることを願って
寺のひとり息子として生まれ、昔から「お寺を継がないの?」と周囲に言われてきた宏堂さんは、僧侶になることに抵抗感があった。しかし、何も知らずに拒否するのは偏見になると思いを改め、自ら向き合うことに。実際に学んでみると、仏教が「多様性」を認める教えであることがわかった。 「仏教では2500年前から、性別も人種も関係なく、みな平等に生きられるということを唱えています。例えば阿弥陀経では、極楽浄土の池に咲く蓮の花はいろんな色に輝いていると説かれています。周りに何と言われても、自分の価値を疑わずに輝いているのが美しいということです。ほかにも、同性愛や着飾ることを肯定するような教えもあるとわかり、私自身がとても救われた気持ちになりました。そういった教えが、ほかの誰かの生きるヒントになるかもしれないと思い、発信を続けています」(宏堂さん) 同性婚に向けた日本の法整備は遅々として進まず、差別や偏見は今も根強く存在し、政治家までもがヘイト発言を繰り返す。学校や職場でのいじめに悩まされ、自死に追い込まれるLGBTQの若者もいる。私たちは、そんな不平等な社会で生きている。一方で、宏堂さんやフアンさんのように正々堂々と振る舞う人たちがいるおかげで、日本でもセクシュアルマイノリティの存在が可視化されるようになってきた。当事者であるふたりは決して希望を失わず、互いに手を取り合って進み続けている。より良い未来を見据えるふたりに、日本がどんな国になってほしいか尋ねた。 「日本はとてもクールな国です。そして今後はもっと多様化が進んでいくと思います。偏った価値観に引っ張られないためにも、ひとりひとりがもっと自由に、自分の考えを主張できる社会になってほしいですね。真の多様性とは、人をカテゴライズするものではなく、それぞれの違いを受け入れ、それぞれの声に耳を傾け、尊重し合うことだと思っています」(フアンさん) 「以前、知り合いが私にこんな話をしました。『男性は荷物が少ないから、バッグが小さくてすむわね』と。それを聞いたとき、その人の言う“男性”って誰のことだろうと思いました。性別のカテゴリーを超えて、いろんな人がいるという価値観が広がれば、より多くの人たちがしがらみから解かれるんじゃないでしょうか。そのためには、自分と異なる考え方や背景を持つ人と出会うことが大切だと思います。海外旅行に行ったり、日本に来た外国の人と話をしてみたり、SNSでは踏み込めない領域で心の対話ができたら素敵ですよね。『いろんな人がいていいんだ』という考えに変わっていく社会が、これからの日本の姿であってほしいです。仏教が時代とともに変わっていくように、法律もそうだと信じています」(宏堂さん) 結婚という法的な結びつきができたことで、「椅子の脚が増えたような安心感がある」と宏堂さんは言う。自分たちのことを隠さず、明るく前向きに生きていく。日本が、そんなふたりを心から祝福する国になる日は、きっとそう遠くはないはずだ。