西村宏堂さんカップルが見つめる、同性婚が認められる未来
前例のない、日本とコロンビアの国際同性結婚
結婚の手続きは、フアンさんの母国であり、同性婚が認められているコロンビアで行うことになった。2023年2月、宏堂さんは再びコロンビアへ。5週間の滞在期間中にすべての手続きを終えるつもりだったが、道のりは想像以上に険しかった。 「通常、国際カップルが結婚するためには、婚姻要件具備証明書という書類が必要です。でも日本の法務局に問い合わせたところ、同性婚の場合は発行できないと言われてしまい、一度は諦めました。その後、コロンビアの通訳の方に相談すると、独身証明書で代用できることがわかったんです。そのほかの手続きも煩雑で、目がまわるようでした。おそらくコロンビアと日本の国際同性婚の前例がなかったこともあり、必要な文書を不備なくそろえるのにかなり時間がかかってしまいました」(宏堂さん) 5週間の滞在中に手続きを終えることはできず、宏堂さんは仕事のため、やむなく日本へ帰国。半年後の2023年9月にもう一度コロンビアへ渡り、ようやく結婚することができた。フアンさんの正式なパートナーとしてコロンビアで共に暮らすことも検討したが、仕事のことなどを考えると今すぐ移住するのは現実的ではなかった。ちょうど同じ時期に、フアンさんがかねてから日本で申請していた就労ビザが許可されたため、同年10月にフアンさんが来日。ふたりは日本で仕事をしながら“家族”として暮らしている。
日本でも、同性カップルが幸せに暮らしていることを知ってほしい
同性婚が認められていない日本では、ふたりの婚姻関係は成立しない。宏堂さんとフアンさんは、東京都港区が導入している「みなとマリアージュ制度」に登録した。性的指向や性自認にかかわらず、人生を共にしたい人と暮らすことを尊重するために設けられた制度だ。本制度によりパートナーシップが認められると、住宅への入居や病院での付き添いなどで理解されやすくなる。ただし、それ以上の法的な効力を発揮するものではない。 「自治体のパートナーシップ制度に登録したからといって、フアンに配偶者ビザはおりません。それに、相続権や税金の控除などの法的権利が得られるわけでもありません。せめてパートナーシップ制度が結婚と同じような扱いになってくれたらいいなと思います。フアンが大学の学位を持っていたことで就労ビザを取得できたから、今こうして日本で一緒に暮らすことができていますが、ビザの取得も決して容易なものではありませんでした。もしもビザがおりないままだったら、私たちは今も離れ離れだったかもしれません」(宏堂さん) 同性愛者であり、日本では「外国人」とされるフアンさんは、性的・民族的マイノリティとしての日本社会での生きづらさを吐露する。 「私の故郷であるコロンビアの首都ボゴタでは、LGBTQの人たちは珍しい存在ではありません。街を歩いていても同性カップルをよく見かけますし、ボゴタの前市長はレズビアンであることを公言していました。コロンビアは多民族国家なので、人と違って当たり前という雰囲気が社会全体に根付いているのですが、日本には人目を気にする文化がありますよね。日本で暮らしていると、ときどき自分がジャッジされているような感覚になるんです。私は在日外国人として、日本の社会や習慣をリスペクトしていることを示さなければならないと思っています。そしてそれは、自分にとってのプレッシャーでもあります」 とはいえ、日本で暮らすことを悲観的に捉えているわけではない。「宏堂と結婚し、日本に来て、人生の新章を迎えたような気持ちでいます。私たちはともに学び、成長し、より大きな夢を共有し合える素晴らしい関係なので、正しい選択をしたと確信しています」とフアンさん。 ふたりは一緒に街を歩くとき、なるべく手をつなぐようにしている。日本にも同性カップルがいて、異性カップルと同じように幸せに暮らしていることを多くの人に知ってもらいたいからだ。 「もちろん、周りの目がまったく気にならないわけではありません。でも、私が気にしていてはいけないんじゃないかという思いもあります。日本には、婚姻の自由を認めると子どもが生まれにくくなり、国力が弱まると指摘する人もいます。そうした理由から、同性愛が不十分なもの、あるいは劣っているものであるかのようにみられることも。 日本のLGBTQの人たちの約80%が、職場でカミングアウトできていないという統計データを見たことがあります。私たちの周りにも、まだ言えていない方がたくさんいる。そう思うと寂しい気持ちになりますが、だからこそ『私たちは自信を持っていい存在なんだ』という断固とした意志を示すことが重要だと思っています。こうしてふたりで取材をお受けしたり、私たちの関係性を公にしたりしているのは、そういった思いが根底にあるからです」(宏堂さん)