freeeが手掛ける「透明書店」 収益をすべてネットで公開中
新刊書を売るだけでは成り立たない
岩見:最初に事業計画を立てた時点で、新刊を売るだけだと成り立たないだろうことは、分かっていました。ですので、当初から書籍、物販、イベント、飲食など、プラスαは考えていましたね。 「透明書店」では、「素敵な本屋のつづけ方」というタイトルで、独立系書店の先輩を招いて経営相談をする会のようなイベントを催しているのですが、人気のある書店のオーナーさんは、正攻法だけでなく、多彩なプラスαを持っていることを実感します。 例えばどんなプラスαなのですか。 岩見:倉庫のような物件を借りたことで、不動産の初期費用がほとんどかからなかったとか、本屋とは別に仕事を持っているとか、それぞれの仕掛け、工夫とともに回しておられます。 「透明書店」はいまのトレンドである棚貸し事業「シェア型書店」も導入されて、新刊とハイブリッドで品ぞろえをしています。ただ、棚貸しはスタート時はなかったですよね。 岩見:23年12月にギャラリースペースの壁面を使って、棚貸し用の54棚を設えました。その内装費約120万円のうち半分をクラウドファンディングで募ったところ、ありがたいことに80万円以上が集まりました。 なぜそんなに集まったのでしょう? 岩見:リターンとしてシェア棚を1カ月、3カ月、5カ月間利用できるプランを付けたことで、書店経営に興味のある方々から関心を持っていただけたと思います。利用期間を過ぎた後、継続したい方はサブスク契約に移行します。入会金が税抜き1万円で、月額利用料は棚の位置にかかわらず、一律で税抜き5200円。売り上げの手数料は10%をいただいています。 棚貸しの収益貢献度はいかがでしたか。 岩見:54棚に棚主さんが付いて、毎月サブスク代金が入ってくると、ちょうどここの家賃と同じぐらいの金額になるので、棚貸しが安定すると、心理的には相当楽になります。 同時に、いつか本屋を開きたいという方の一歩目として利用していただいたり、棚主さん発案の企画で透明書店のスペースでイベントを開いたりと、スモールビジネスにチャレンジする後押しもできつつある状況です。 イベントが効果的とのことですが、freeeの会計講座、みたいなベタな企画もできそうですよね。 岩見:実は親会社に直結するようなプロモーションは、ここでは積極的には行っていないんです。昨年は秋口にインボイス制度がスタートして、リトルプレスの作家さんや、その作品を発注する個人書店からのニーズがあったので、税理士さんを招いて、いろいろ聞いてみる会を催しましたが、「透明書店」がfreeeのショールームになり“すぎる”ことは、僕たちが考える顧客との望ましいコミュニケーションではないと考えています。あくまでも、自然にfreeeに愛着を持っていただく、ということを意識しています。 こうなったら書店はやめよう、という撤退ラインは設定されているんですか。 岩見:freeeのブランディングに重きを置いていますので、資金的な面ではなく、「これ、freeeがやる意味はないんじゃないか?」といった議論になった場合に、もしかしたらあり得る、という感じです。僕らは社内の議論で「マジ価値」という言葉を、よく使っています。つまり、本質的な価値という意味ですが、書店という業態をfreeeが行うことには「マジ価値」があると感じています。また、書店は経営が難しいから、逆説的にチャレンジのしがいもありますね。 開業2年目に入って、スモールビジネスの手応えは、さらに出てきましたか。 岩見:この4月に単月黒字をクリアできたことは、今後の希望になっているので、秋に読書が盛り上がるシーズン以降を、定常的に単月黒字にしていくことが、当面の目標です。それができると、僕たちの思う「自由な経営」という形の例として無理なく提示できますし、例えばここでの棚貸しをきっかけに、スモールビジネス精神で書店を経営する方が出てきてくださると、とてもうれしいです。 (※後編に続きます)
清野 由美