<パリ五輪男子バレー>日本の”絶対的司令塔”関田誠大。恩師が「あの竹下佳江さんと共通する」と語ったセッターとしての天性の素質とは?
監督になって一番嬉しかった勝利
――松永さんから見る関田選手の性格は? 頑固ですね(笑)。大学時代、僕は彼から「この練習、面白くないです」と言われたこともありましたから(笑)。 ――「面白くない」とは? 僕は得意なことをやらせるだけではなく、彼の将来も見据えて新たな可能性も引き出したかったし、学生の枠にはまることなくいろいろなことにチャレンジさせたかった。 当時の日本代表を見ていても、前衛からのスパイクよりもバックアタックが決まっていたので、「これを大学でも活かそう」と思い、誠大に「まずバックの攻撃からサインを出して」と要求したんです。 彼からすれば、「まず前衛にサインを出すのに、何を言っているんだ」と思うだろうし、今でこそ、ひとりの選手がさまざまなポジションをこなしていろいろな場所から攻撃するのも当たり前になってきましたが、当時はその発想もほぼない。 そういうなかで「バックアタックを普通に使うことで、前衛をフリーに動かせろ」と言われる。彼からしたらそれは「面白くない」だったんでしょうね(笑)。でも3年になる頃には、何も文句をつけることがなくなりました。 ――指摘することがないぐらい完成されていた? 誠大が3年の時に(石川)祐希が入ってきて、やはり彼は攻撃の中心になるわけですが、僕が「ここで祐希に上げてくれ」と思うポイントと、実際に誠大の上げ時が合致していたので、それも含めて「言うことはなかった」ですね。 ただ、4年時の全日本インカレ前に調子が悪くて、早稲田大と練習試合をした時、全セットを取られたことがありました。「このままじゃダメだ」と思ったので、僕はあえてその場で、誠大たち4年生に対して最上級生としての立ち振る舞いや姿勢を強く叱責したんです。 選手たちも、なぜ僕がそうしたか理解してくれていると思っていましたが、誠大にはもう少しフォローを含めて話をしたかった。 そこで練習試合が終わって、寮に戻ってから誠大に「飯食おうよ」と連絡して、大学の近くにあるファミリーレストランに呼び出したんです。僕は車で向かい、駐車場に入ろうとしたら、お店の看板の下にフードを被って座っている男がいた。 それが誠大でした。お店に入ったあと、インカレ、その後の天皇杯に向けてチームとしてこうやっていこうと話をして。そうしてインカレを勝ち、天皇杯でサントリーサンバーズに勝った時は本当に嬉しかったですね。 もしかしたら監督になって、一番嬉しかったのがあの天皇杯(でのサントリー戦)の勝利かもしれない。 リーグ戦や全日本インカレを勝てた時も嬉しかったですが、メンバーが揃っていた分「勝たなければいけない」というプレッシャーが常にあったので、勝っても一番に出てくるのは安堵感でした。 ただ、誠大がキャプテンを務めたあの代は「一番強いチームをつくりたい」と思って、チーム発足時から「Vリーグに勝てるチームになれば絶対に(大学で)日本一になれる」と言い続けてきたので、勝てた時は純粋に嬉しかった。ファミレスでの時間も僕にとっては濃厚でしたが、誠大はもう覚えていないかもしれませんね(笑)。 ――関田選手から、「ミドルを使うようになったのは大学から」とうかがったことがあります。高校時代は柳田将洋選手、大学では石川選手と日本代表で活躍するエースがいても、安易に「最後はエース」としないトスワークや思考も関田選手の魅力。その土台が築かれたのが中大時代かもしれませんね。 誠大の中に「石川ばかりじゃ面白くない」という発想もあったでしょうし、逆に「石川を活かすためにも真ん中を」という意識もあったと思いますね。やると決めたら徹底してやり抜く頑固さもあって、より高いレベルに引き上げていったと思いますし、彼なりに貫きたいことがあるとわかっていたからこそ、あえて僕も面倒なことをさせた。 それも、関田誠大という名セッターをつくりあげた要素になっていたら嬉しいです。たぶん彼の学生生活のなかで、監督に向かって「面白くないです」と言ったことはその時以外ないんじゃないですかね(笑)。誠大にそう言わせたことも、僕にとってはひとつの誇りです。 取材・文/田中夕子 写真/shutterstock
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