「歌うことは人生最大の恐怖だった」 怖さを乗り越え自己肯定力を手にした星野源の決断
療養中、SNSに救われた
パンデミックとともに、恐怖や不安が社会には広がっている。SNSを通じたコミュニケーションは、コロナ禍でネガティブな側面をあらわにしたかもしれない。そんな中、SNSによって救われた過去を持つ星野は、SNSをめぐる現在の状況に怖さを感じている。 「病気で療養していて誰にも会えなかった頃、コミュニケーションする相手を作ろうと、違う名前でツイッターをやってみたことがあるんです。自分のことをただつぶやいても、フォロワーはいないし反応もない。ところがハッシュタグを利用して、特定の何かに対して意見や感想をつぶやくと、いいねが付いたり、リツイートされたりする。だからもっと欲しくなって、さらに反応がくるにはどうしたらいいかと傾向と対策を自然と考えはじめそうになって、嫌だなと思ってすぐにやめました」 「ツイッターをしていた時、『おはよう』ってつぶやくと『おはよう』って返してくれる人がいて、その存在に本当に救われました。いまはアカウントを消してしまったので、その人には一生会うことができないけど、そういう素敵な部分もあると思います。でもSNSはやはり怖いですよね。例えば僕が文章を世に出す時は、その前に必ず編集者さんやマネージャーさんが目を通して、間違いや不適切な部分がないかチェックしてくれる。一方で、ネットニュースや各メディアの中にだって傷つくような言葉があるのに、指摘したり、止めてくれたりする人が誰もいないまま、ものすごくたくさんの人たちがSNSで発信していると思うと、それはこうなってしまうよなって思います」
邪魔する人たちは音でぶっ飛ばしていきたい
コロナ禍を生きるいま、さまざまな考えが脳裏をよぎる。実際にさまざまなことを経験した。嫌なこと、うんざりすること……頭に浮かぶその考えや感情を、これまでよりもっとはっきりと伝えていきたい。曲作りのスタイルは、社会のあり方に応じて変わろうとしている。 「シンガーソングライターとして音を作り、歌詞を紡ぐ作業の中で、これまでは風景や感覚を言葉にすることが面白くて、そういう歌を作ることが多かったんですが、いまは自分の考えていることを割とはっきり歌詞に込めるのが面白いと思うようになりました。それは世の中が変わってきたことも大きいです」 「2019年に書いた曲『私』の中に〈あの人を殺すより/面白いことをしよう〉〈あの人を殴るより/イチャついて側にいよう〉という歌詞があるんです。でも新曲の『Cube』では〈殴らせろ〉って歌ってるんですね。だからその前に〈前言を撤回し〉という一言が付いています。もちろん僕は音楽で表現するから、〈音でやつを/殴らせろ〉という歌詞になった。そういう感覚の変化は常にありますね」