「歌うことは人生最大の恐怖だった」 怖さを乗り越え自己肯定力を手にした星野源の決断
新曲「Cube」にぶつけたのは、「いま世の中を生きていくうえで強く感じていること」。怒りにも似た星野の問題意識が、曲には直接的に反映された。 「生きていくのがすごく大変な時代じゃないですか。たくさんの人が怒りを抱えていると思うし、そこに折り合いをつけながら生きている。その怒りの感情を、僕はいままで音楽で変換させてきたんです。楽しい音楽にしたり、切ない音楽にしたり。でも今回はそれを直接音にする感覚でした。整理してキレイにするのではなく、リミッターをかけずにこの言葉にできない感情を全部出しきろうって」 歌詞にも彼の実感が率直に表れている。例えば〈僕らいつも果てなきこの愚かさの中〉という一節。 「オリジナルと日本版リメイク、両方の映画を観て僕が感じたメッセージは、人間はいつまでも愚かであるということ、理不尽を強いる人がいること、それに苦しむ人たちもさらに弱い立場の人を理不尽に苦しめてしまうということ。それっていまの世の中と変わらないんじゃないかと思いました。愚かな僕らにいったいどんな価値があるのか。それは普段から自分が考えていることでもあったので、その思いを曲に込めました」
リミッターをかけることなく、すべて出しきるという方向に進んでいった結果、過去のどの曲とも異なる感触の曲が生まれた。 「今年リリースした『創造』以降、より出しきれているという感覚で曲作りができてるんです。『不思議』では楽曲の進行や和音に関して、あとラブソングであるということに対してもやりたいことを全部やりきれました。今回の『Cube』でも楽曲の構成や鳴らし方をいろいろと試してみたら、使用する楽器はほぼ三つで十分だったんです。ドラム、ベース、オルガン。ギターも少し入っていますが、楽器は少ないのに音はカオスという、あまりない構成の楽曲になりました。作っていて本当に楽しかった。自分の頭の中のイメージを、全部ちゃんと表現できた気がしています」 時の経過を忘れ、自分すらなくなるほど、音楽は楽しい。社会や時代がどんなに変わろうと、星野はその楽しさの中に生きている。