自閉スペクトラム症と知的障害の高3男子 自分の顔をたたく自傷行為に隠されたメッセージとは?
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発達障害、不登校、ひきこもり、リストカット、摂食障害……。子どもの心の診療に携わる精神科医の宮﨑健祐さんが、子どもの心が元気を取り戻す方法を考えます。 【図解】発達障害「自閉スペクトラム症」解明進む
りく君(仮名)は乳幼児健診での指摘を経て自閉スペクトラム症(ASD)、知的障害(知的能力障害)と診断されました。療育が始まり、小、中学校は特別支援学校に通い、特に問題なく登校していました。家族と一緒にドライブすることが大好きな子どもさんでした。 ところが、特別支援学校の高等部に進学すると、3年生になって自宅や学校で自分の顔をたたく自傷行為が表れるようになりました。初めは周囲も様子を見ていましたが、改善する気配がありません。気持ちが落ち着かず、時に興奮して大声を出してしまうようにもなり、心配したご両親と共に病院を受診されたのです。
診察時、りく君は困惑して不安そうな様子でした。単語でのやりとりは可能でしたが、複雑な会話は苦手でした。なぜ自傷するのかを聞いても、うまく答えることができません。ご両親も、自傷の原因となりそうなことは思い当たらないといいます。私は、まずは気持ちが落ち着くような薬を飲んでいただくことにしました。これだけで自傷が落ちついてしまうこともあるのですが、次の診察時、ご両親によれば、りく君の気持ちは多少落ち着いたものの、自傷は続いているとのことでした。 りく君のような知的障害を伴う自閉スペクトラム症の子どもさんの自傷の背景には様々な意味があります。例えば、「ああ、もうどうしたらいいかわからない!」というイライラや不安な気持ちへの自分なりの対処、「もう嫌だよ!」という拒否のメッセージ、「痛いけどやめられなくなっちゃったな」という、たたくという感覚刺激への没頭、「みんな私のことを見てよ!」という注目獲得などなど……、これ以外にもいろいろな意味があるかもしれません。いくつかの意味が混じっていたり、初めは注目獲得の意味だったけれど、徐々に感覚刺激への没頭に意味が変わっていったりということもあります。ですので、はっきりと分からないことも多いのですが、それぞれの意味に応じた介入が必要となってきます。 りく君のように自分で説明することが苦手な子どもさんの場合、周囲がその原因について考える必要があります。そのために、まずは、ご両親に行動をじっくり観察してもらうことにしました。顔をたたくという行動の前に何が起きているのか、顔をたたく時には周囲で何が起きているのか、その後に、りく君がどうなったのか、などを観察してもらうことにしたのです。