女性の“生活の波”を整える漢方―その効果と使い方を知る
女性に多くみられる不調の中には、西洋医学では対処が難しかったり、複数の診療科を別々に受診するよう求められたりするものもあります。そのような症状でも、漢方ならば“ワンストップ”で対処できる可能性があります。名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科学講座、梶山広明主任教授(日本東洋医学会漢方専門医・指導医)に、女性の不調に漢方が合う理由、診療を受けたいときの医師の探し方などについてお聞きしました。
◇月経困難症と不安感、便秘を1薬で改善
最初に漢方診療がうまく合った患者さんの例をご紹介します。 20代後半の女性で、別の婦人科系の病気で外来受診中、月経困難症と不安感があると相談を受けました。話を聞くと、ほかに便秘もあるとのことで、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)を処方しました。「血流を改善させて、余分なものを少し捨てる」作用があるとされている薬です。患者さんが訴える「不安」は、安定した精神に対して何か余分なものと考えることができます。便秘も本来排出すべき余分なものが体内にとどまっている状態です。それらを捨て、血流改善により月経困難症の改善も期待できますが、体に合うか分からないため「飲めたら飲んでみてください」と、まずは2週間分処方しました。 2週間後の診察で、患者さんから「服薬を続けられた」と報告があり、腹部エコー検査では血流が改善しているように感じられました。患者さんも「ちょっといい感じ」とお話しになっていたので続けて服用してもらい、4カ月ほどたつのでそろそろやめ時を考えています。 このような症状を訴える患者さんは、西洋医学であれば▽月経困難症は婦人科▽不安感は心療内科か精神科▽便秘は消化器内科――など別々の診療科で治療をするのが一般的です。しかし、漢方ではまず症状をみるため、うまくはまれば1つの薬で改善が期待できます。
◇漢方が女性に合う理由
私の個人的な印象ですが、漢方は非常に女性に合っていると思っています。というのは、女性は「リズムの中で生きて」おり、漢方にはリズムを整えるはたらきもあるからです。月経という月のリズム、妊娠・出産の時期や更年期など、女性の生活にはさまざまな波があります。 妊娠すると、直径0.1mmほどの受精卵が臨月には両手で抱えるほどの大きさに育ちます。その間、約10カ月にわたって子宮の中で胎児を育むために女性のおなかは血流が発達している一方で、血液のうっ滞(流れが滞ること)を招きやすくなっています。 女性に多い「冷え症」は、血液がうっ滞するところと逆に不足するところが生じることで起こると考えられます。冷え症という概念は、西洋医学にはありません。一方、特に女性に多い冷え症、疲れやだるさ、こり、腰痛といった症状は、漢方では「瘀血(おけつ)」という血の流れが悪い状態によって引き起こされると考えます。こうした症状に対し、西洋医学とは異なるアプローチから「流れを整える」のが漢方なのです。