自閉スペクトラム症と知的障害の高3男子 自分の顔をたたく自傷行為に隠されたメッセージとは?
いったん立ち止まってみることを両親に提案
その次の診察時、ご両親が来院されました。何やら思い悩んだ様子でしたが、意を決したように思いを語ってくださいました。「前の会議が終わって、両親間でも振り返ってみたのですが、どうもいろいろなことを頑張らせ過ぎていたのではないか……と思いました。それで無理をさせていたのかな……と。それが本人の負担になっていたのではないかと思って……」。ご両親は、りく君が高校を卒業したらちゃんと就労して自立させないといけないと思って、ちょっと焦っていたといいます。自宅でもいろいろな活動を取り入れるようになっていたそうです。 私はご両親がそうならざるを得ない思いを受け止めながらも、ここでいったん立ち止まってみることを提案しました。支援者同士でも情報を共有し、学校での活動はほどほどにして、通所の活動も少しの間お休みにしてもらいました。その代わりに家族の時間を多く取るようにしてもらい、最近はあまりすることがなくなっていたドライブにも行ってもらうことにしました。 その後、徐々に気持ちが落ち着いて過ごせるようになり、自傷も見られなくなりました。外来診察時、私にもいい笑顔を見せてくれるようになりました。そして、3か月程度してから、少しずつ元通りの活動のペースに戻していくことにしました。りく君も、ご両親も、支援者も、焦らず、少しずつ取り組んでいますが、落ち着いた状態で経過しています。 りく君のように、言葉でのコミュニケーションが苦手な子どもさんの症状をどう理解するのか。それは、子どもの心の医療の本質的なところかもしれません。そのためには、症状に隠されたメッセージに思いをはせながら支援していく必要があります。一人で考えても分からない時は、いろいろな人と相談しながら考えることで、そのメッセージに近づいていくことができるのではないか、と思います。
宮﨑 健祐(みやざき・けんすけ)
1978年、岐阜県生まれ。大分大学医学部卒業。精神科医。弘前愛成会病院精神科医局長・外来医長。児童思春期の心の診療に長年携わる。2017年、日本児童青年精神医学会実践奨励賞。2024年、NPPR Topic Award 2023(日本神経精神薬理学会)。著書(いずれも分担執筆)に「現代児童青年精神医学(山崎晃資編著、永井書店)」「不安障害の子どもたち(近藤直司編著、合同出版)」「発達障害支援の実際(内山登紀夫編、医学書院)」など。