注目を集める若き画家・真田将太朗。生成AIの進化を受けて再考する、創造性と「絵を描く」という欲求の根源
「絵を描く」という欲求の根源にあるものはなにか
――人が描くという行為をなぜそこまで研究するのでしょうか。 人間の記録に対する欲求が絵を描かせていると思うんです。自分が見たものを残して伝える方法として描きたいという欲求です。言語が誕生する前、人は別の手段でコミュニケーションしてきました。たとえば、音程の変化で意思疎通したり、石を置いて自分の痕跡を残したり。そうした行為のいくつかは言葉の誕生とともになくなっていきましたが、言葉ができた現在でも残っている行為は、言葉以上の意味がある。こうして美術や音楽がいまもあるのは、言葉以上の感動を呼ぶからだと思うのです。 ――いくつもある美術表現の中で、真田さんにとって「絵」はどんな存在ですか。 見ていたくなる窓や壁のようなものです。小さい頃から無料で入ることのできる地元の美術館で絵を眺めるのが好きでした。なぜ絵を眺めるのが好きかと考えると、四角い窓のように何もない壁に絵の枠があるだけで、向こうにある世界を覗き見ている感覚になるからです。窓のように、向こう側に飛び込んで行けるデバイス。一方で、壁として自分の前に立ちはだかる存在でもあります。自分に何かを訴えてくるような存在です。だから四角い絵に引かれるんです。 ――では、AIが登場して、今後、絵画はどうなっていくとお考えですか。 AIの登場は画家という職業の根底を揺るがしつつ、制作プロセスの一要素として組み込まれることで、より効率的な絵画創作に繋がると思います。大人数で分業して、手分けして描くような大作にも、ひとりで臨むことも可能になるかもしれません。 新しく生まれた技術を取り込む、あるいはそれに反発することで絵画は発展を続けてきました。美術の歴史を振り返れば、鏡やカメラなどの視覚に関わる発明があるたびに、画家たちは自分たちの存在意義を考え直し、新しい表現にたどりついたのです。理想的な絵を瞬間的につくり出し、数秒間に数万回の思考が可能なAIは、画家の仕事を奪うようにも見えますよね。ただそれは画家、ひいては人間が本来するべき仕事とは何かを見つめ直す機会になります。新しい表現が生まれる転換点に、僕は絵を描きながら立っていたいと思います。 ●Pick Up <人工知能との共同制作> 東京藝術大学4年時に人工知能と共作した作品。真田が一筆描き、それに対してAIが次の一筆をプロジェクションマッピングで加え、それを繰り返すことで完成させた。 <六文銭> 6つの銭のかたちを並べた文様は真田家の家紋。真田は戦国武将、真田幸村の末裔にあたる。私物のマウンテンバイクに家紋をあしらうなど、先祖へのリスペクトを感じさせる。
写真:竹之内祐幸 文:長谷川香苗