注目を集める若き画家・真田将太朗。生成AIの進化を受けて再考する、創造性と「絵を描く」という欲求の根源
確立させた、垂直方向のストロークで描く手法
――真田さんが独自に確立した絵の手法とは。 現在92歳になるドイツの抽象画の巨匠、ゲルハルト・リヒターの色彩感覚やエネルギーに満ちた描き方に大きく影響を受けています。ただ、僕は風景を見つめた時の感動や、目の前の風景ができあがるまでの年月の経過を絵の中で表現したいと思っているので、手法として、年月とともに地層が上に積み重なっていく残像や、建物が地上から基礎で積み上がっていく残像を、垂直方向のストロークを使って画面構成するという独自の手法を確立しました。 ――そうした自身が編み出したオリジナルの風景画は大学の教授からも注目され、JR上野駅構内にあるレストラン、ブラッスリー・レカン店内の壁画制作につながりました。この壁画で表現しようとしたことは。 壁画『融景上野』は僕が上京してきて感じた上野のイメージです。上野は公園口からは世界遺産に登録されている国立西洋美術館や国立の博物館、そして東京藝術大学へとつながる文化の杜といわれる地域です。一方で、駅の中央改札を出れば繁華街や飲み屋があり、上野駅を中心に多様なエリアが混在している。上野公園の森やセメントの色、どきついネオンカラーといったものが混ざり合う景色をキャンバスに描きました。 ――ブラッスリー・レカンの壁画制作を受ける前にはJR長野駅構内の壁画制作の依頼も受けています。東京藝大在学時からすでに頭角を表し、卒業後、そのままプロの画家として自立してもよかったようにも思いますが、大学院に進み研究者への道を選んだのはなぜでしょうか。 僕が大学4年時の2023年、画像生成AIの質が格段に上がったことで、生身の人間のアーティストは淘汰されるんじゃないかという議論が生まれました。そこで僕自身、生成AIとの共存というか共創から、人間が持つ創造性の再定義ができるのかという問いをしたんです。僕のアーティストとしての癖を大量にインプットした分身をコンピュータ上につくり、その分身とともに絵を描くという試みです。具体的には、僕の分身であるAIとともにキャンバス上に絵を描きます。同時には無理があるので、僕が一筆描いたら、次に分身がプロジェクションマッピングで描き、その次は僕が描く、その繰り返しによる共創です。 絵の共創と同時に、卒業論文として理論を展開しました。それはこれまで人の創造性は人の身体から出ることはないというのが通説でした。では、創造性を持つ主体が、もうひとり、分身としていたという仮定で、その分身と対話しながら絵を描くとき、自分の創造性は分身にも宿っていくのではないか、という考察です。それでもまだ解は出ません。研究を続けたくて東京大学の大学院に進むことにしました。院では芸術家の脳構造をベースとした包括的な分身をつくるため、山形大学や福島県立医科大学にも協力を仰いでいます。最先端のMRIや脳波計によって、絵を描いている時の僕の脳の脳波を測定し、それらのデータをもとに分身をプログラミングする研究です。