50年ぶりの刊行、この時代に宛てたもっとも真っ当な希望のメッセージ―芥 正彦『芥正彦責任編集 地下演劇 第7号: 希望の原理』橋爪 大三郎による書評
『地下演劇』の刊行は50年ぶり。寺山修司氏が創刊し芥正彦氏がバトンタッチした後、6号で停まっていた。でもこの異形の装丁は何だ! 九二七頁で四五○○円+税。黒を基調に地の底から這い出した悪霊の雰囲気が漂う。ただ読んでみれば、この時代に宛てたもっとも真っ当な希望のメッセージなのだとわかる。 芥氏は先年公開の映画『三島由紀夫vs東大全共闘』で再び注目されている。氏の戯曲「灰と、灰の灰」、東大の学生諸君や宮台真司氏との討論、若い世代の人びととの13回にわたる連続ゼミ、ラジオ番組に出演したトークの記録、…。二○二○年以降の活動がすべて収められた。 “今日の世界は、惑星規模の犯罪のシンジケートが統合され…すべてが“利潤追求”によって正当化され…る。…世界は沈黙する石のままである。…爆発する石…。…「希望」は発現しつつある。” こうのべる芥氏は惜しみなく若者に言葉を与え、彼らと対話が成立している。これが希望でなくて何だろう。芥氏が私の古い友人だから言うのではない。本書が定価の十倍、いや百倍の四五万円で買われたとしても驚かない。ここには真実が書いてあるのだから。 [書き手] 橋爪 大三郎 社会学者。 1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。 著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。近著に『裁判員の教科書』(ミネルヴァ書房)、『はじめての言語ゲーム』(講談社)がある。 [書籍情報]『芥正彦責任編集 地下演劇 第7号: 希望の原理』 著者:芥 正彦 / 出版社:スローガン / 発売日:2024年04月25日 / ISBN:4909856102 毎日新聞 2024年6月22日掲載
橋爪 大三郎
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