フルモデルチェンジたった2回 世界の名車「ジムニー」
レンジローバーはご存知の通り、ジムニーとは比較にならない巨大なボディサイズを持ちながら、全てを手の内に入れる車両感覚を成し遂げていることに驚きがあるのだが、この面でジムニーは車体が小さいとは言いつつもレンジローバー以上に優れており、頭上を横切る枝が屋根に当たるかどうかまで把握しうるという。これはシートを直立に近いほど立てたことで、視界の自然さと三半規管を阻害しないポジションがとれることに起因し、人の座らせ方を中心としたパッケージの妙の成せる技だ。 ポルシェ・カイエンはこの点で話にならないし、フォルクスワーゲンのトゥアレグも全く及ばない。日本を代表するフルサイズクロカンであるトヨタ・ランドクルーザーもこの点では及第点はつかない。『午前零時の自動車評論7』の中で、トヨタには車体把握性能というチェック項目自体がないことを、沢村氏はエンジニアへのインタビューで聞き出している。ジムニーの車体把握性能がいかに優れているか、そしてそれが稀なものかがよくうかがえる。
ポイント(3)現行市販車最良のパワステ
もう一点、触れて置かなくてはならないのが、パワーステアリングの出来だ。実はジムニーのパワーステアリングは巷間評判の芳しくない電動パワステ(EPS)だ。しかしステアリングギヤボックスは現在の主流であるラック&ピニオンではなく、リサーキュレーティングボール式となっている。これは悪路での強いキックバックでドライバーが手を傷めないための配慮だろうが、そのチューニングは現行新型車の中で選りすぐりの秀逸なものだという。 エンジンとミッションの連携や四輪駆動システムの出来については相当に専門性が高いので、興味のある方は書籍を直接読んでいただくとして、ここまで抜き出しただけでもジムニーという稀なるクルマの素性は十分に伝わると思う。 ずっとそこにあり続ける優れたクルマとして、なかなか原稿で触れることができないでいたジムニーについて、沢村氏の著書を引用しながらとはいえ、こうして書き記すことができたことで、筆者は胸のつかえが下りた気分でいる。ジムニーは何も山道でだけ本領を発揮するクルマではない。きちんと走るということに誠実に作られたクルマは、毎日街を走る道具として気持ちのいい日々を送らせてくれるものなのだ。 (池田直渡・モータージャーナル)