フルモデルチェンジたった2回 世界の名車「ジムニー」
ポイント(1)優れたシート設計
前述の沢村慎太朗氏は『午前零時の自動車評論9』の中で、ジムニーの誠実なエンジニアリングを「心の安住感」と表現し、美点を挙げているので抄訳してみよう。 まず、シートが素晴らしい。軽自動車では類を見ないほど座面奥行きが採られており、バックレストのサポートも秀逸。時に上体を捻って路面状況を確認しなくてはならないクロカン四駆は肩の後ろでドライバーを支えるシート設計ではいけない。上体の自由を確保しつつ体をしっかりサポートするためには腰の横でサポートするべきなのだ。ジムニーはそうした基本が揺らいでいない。 さらに悪路を走行した時に彼は驚愕する。シートの取り付け剛性も構造剛性も着座環境も軽自動車のみならず国産Bセグメントを凌駕し、欧州製Bセグメントの優秀なモデルに並ぶ。ゴロ石を乗り越えてボディが揺すられてもシートに共振が出ないだけでなく、脊椎への負担も見事に緩和されている。辛口で鳴る沢村慎太郎氏がこれを軽自動車の限られたコストの中で実現しているそのノウハウの蓄積に「恐れ入る」とまで書いているのである。そんな褒め方はついぞ見たことがない。
ポイント(2)車体把握の秀逸性
しかし、真に驚くのはその車体の把握性能だ。草木の生い茂る山道で、踏み外したら谷底というシチュエーションでも走らなければならない時、4つのタイヤが今どこにあるか、それが手に取るように分かるということはまさに死活問題だ。 この面で世界の自動車の最高到達点の一つが初代レンジローバーだということにおそらく異論はないだろう。フェンダーの峰をきっちり立て、車両の端がどこにあるかが直感的にも視覚的にもわかりやすいボディデザインになっている。 のみならず、シートをできる限りドア側に寄せて、必要があれば身を乗り出せるレイアウトにした上で、窓のラインを下げて運転席からの見晴らし性能を上げている。ハードウェアとしての性能だけでなく、クルマとドライバーのインターフェースが深い洞察で構築されているのである。