栄光の裏で買収騒動に揺れたマンチェスターU、ファンは株主団体を組織し反発【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑤】
1999年5月26日、バルセロナ(スペイン)の本拠地カンプノウで開かれた欧州チャンピオンズリーグ(CL)決勝は「カンプノウの奇跡」と語り継がれる名勝負となった。9万人もの大観衆が見守る中、プレミアリーグ、イングランド協会(FA)カップと合わせた「トレブル(3冠)」を狙うマンチェスター・ユナイテッドが、ドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンと対戦。途中交代のテディ・シェリンガムとオーレグンナール・スールシャールが後半の追加タイムに相次ぎ得点を決め、2-1と歴史に残る大逆転劇を演じた。 【写真】過激な集団が暴れ、スタジアムでは痛ましい死傷事故も…世界最高峰のサッカーリーグ どん底の状況から、どうやって成功への道を駆け上ったのか―。【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生①】
前身のチャンピオンズカップを含め、イングランドのクラブの欧州制覇は15年ぶりだった。「ヘイゼルの悲劇」でイングランド勢が欧州の舞台から退場を求められて以降初の栄冠で、プレミアリーグ誕生による復権を印象づけた。 アレックス・ファーガソン監督は「人生で最高の瞬間だ。現実をなかなか受け入れられない」と試合後に振り返り、イギリスのブレア首相は「国民がそれぞれ応援するクラブの違いを超え、国中が歓喜の渦の中にある」とたたえた。だが、栄光に至る過程でクラブは大いに揺れていた。(共同通信=宮毛篤史) ▽ほしかった放映権の約束 1998年7月1日、マンチェスターUのマーティン・エドワーズ最高経営責任者(CEO)はロンドンのヒースロー空港近くで、衛星放送会社BスカイBのマーク・ブースCEOとの意見交換を兼ねた昼食会に出席した。持ちかけられたのは「クラブを買いたい」という予想もしない大胆な提案だった。
BスカイBは有料衛星放送の黎明期に当たる1990年に、スカイTVとライバルのイギリス衛星放送(BSB)の統合で誕生した。2年後に発足したプレミアリーグの放映権を独占的に握り、リーグの発展とともに急成長を遂げた。 経営は順調そうに見えたが、将来もリーグの放映権を得られ続けるという保証はない。海外のリーグのように人気クラブが独自に放映権料を切り売りする可能性があったためだ。リーグ随一の人気を誇るクラブを手中に収めれば、放映権が今後も約束される―。そうした算段が透けて見えた。 ▽放送とクラブ経営の両立目指した「メディア王」 密談から2カ月後、BスカイBはクラブと共同で記者会見を開き、約6億230万ポンド(当時のレートで約1400億円)で買収することで合意したと発表した。マンチェスターUのエドワーズCEOは「ファンを裏切るわけではない。クラブの素晴らしい未来を確かなものにするためだ」と理解を求めたが、ファンの反応は冷淡だった。