栄光の裏で買収騒動に揺れたマンチェスターU、ファンは株主団体を組織し反発【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑤】
BスカイBは、オーストラリア出身で、アメリカを拠点に「メディア王」の異名を持つ実業家ルパート・マードック氏の影響下にあった。米大リーグのロサンゼルス・ドジャースの買収に成功したマードック氏が、放送事業からスポーツチーム経営との両立に乗り出す中で目を付けたのがマンチェスターUだった。 ▽ブレア政権と蜜月、買収に自信 買収の実現にはイギリス政府の承認が必要だった。ファンは「外資による金もうけのための買収だ」と猛反対したが、BスカイBはゴーサインが得られることに自信を持っていたとされる。イギリスメディアからも、政府が本格的に調査を始める前から「結論ありきの出来レース」と指摘された。その理由がマードック氏と政権との関係の近さだった。 マードック氏はイギリスで大衆紙「ザ・サン」や高級紙「タイムズ」を傘下に収めていた。サンはもともと保守党寄りの報道で知られたが、1997年の総選挙ではブレア氏率いる労働党を支持。サンは「国民はビジョンがあり、意思を持ち、勇気のあるリーダーを求めている。サンはそれがトニー・ブレアだと確信している」と持ち上げ、イギリスメディアからは、労働党が18年ぶりに政権を奪還する「陰の立役者になった」とささやかれた。
▽ファンは株主団体を組織化 マンチェスターUのファンはクラブの経営陣に面会を求めて書面を送ったが応じてもらえなかった。取った手段は、当時ロンドン証券取引所に上場していたマンチェスターUの株を買い集めることだった。それぞれが株を買い、ファンによる株主団体「シェアホルダーズ・ユナイテッド・アゲインスト・マードック(SUAM)」を組織化した。 ロンドン大バークベック校で経営学部長を務めていたジョナサン・ミッチー氏も創設メンバーに名を連ねた。「イギリスでは同じクラブを応援していてもファン団体同士のまとまりはないが、この時は買収反対でみんなが一致した」と振り返る。 「衛星放送事業者が直接クラブを経営することは利益相反に当たる」。株主団体はミッチー氏を理論的な主柱に据えてロビー活動を展開した。マンチェスターを地盤とする労働党の重鎮から「本来は市民のものであるべきフットボールが、スポーツ精神ではなく金に振り回されている」との声が上がるようになり、BスカイBに対する包囲網が狭まっていった。