栄光の裏で買収騒動に揺れたマンチェスターU、ファンは株主団体を組織し反発【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑤】
▽サッカークラブは「地域社会の資産」 マードック氏が活動拠点を置くアメリカでは、野球の大リーグ(MLB)、アメリカンフットボール(NFL)、バスケットボール(NBA)、アイスホッケー(NHL)の四大プロスポーツがいずれもフランチャイズ制を採用する。各チームに特定の地域で独占的に活動する権利が与えられる仕組みで、財政悪化や経営戦略上の判断などを理由に本拠地の移転が繰り返されてきた。欧州サッカーのような下位リーグとの「入れ替え」もない。 一方、プレミアリーグは急速に商業化が進んだものの、イングランドのサッカー界には地域を大切にするという古き良き伝統が根付いていた。ミッチー氏は「アメリカ資本のBスカイBにはイギリスの地域社会への忠誠心はない。マンチェスターUの買収が成功すれば、プレミアリーグのフランチャイズ化につながる可能性があった」と危惧していた。サッカーに対する価値観の相違もあった。ミッチー氏は「イギリスでは、サッカークラブは地域社会の資産であり、営利事業であってはならないという明確なコンセンサスがあった」と指摘する。
▽「全てのシナリオで市場支配力が強まる」 「買収は放送局間の競争に悪影響を及ぼす」。1999年4月、ブレア政権が独占合併委員会に付託した調査結果を踏まえて出した結論は、周囲を驚かせる「ノー」だった。バイアーズ貿易産業相は「委員会が検討したほぼ全ての考えられるシナリオで、BスカイBの市場支配力を強めることになる」と結論付けた。 BスカイBのブースCEOは決定に反発し、捨てゼリフを残した。「イングランドのクラブは今後、成功したメディア企業から支援を受けるクラブと欧州で戦わなければならなくなるだろう」。だが、この警告は杞憂に終わる。プレミアリーグの放映権料は世界的な金融危機を経た後も高騰を続け、「世界一裕福なリーグ」として今も君臨する。その成功を支えたのが、BスカイBとは異なるタイプの新たなオーナーたちだった。