女子バレー、タイ戦の奇跡はなぜ起きたのか
日本の女子バレー史に残るような奇跡の大逆転劇は、6-12の絶望的なスコアから始まった。セットカウント2-2で迎えたタイとのファイナルセット。相手のサーブミス、石井優希(25)のフェイントで連取すると、タイのキャテポン監督の遅延行為に、レッドカードが示され9点目が転がりこんだ。 10点目は宮下遥(21)のエンドラインを狙ったサービスエース。石井のサイド攻撃が決まり、続いて石井のブロックで、ついに同点。勝ち越しの13点目は、迫田さおり(28)が、ライトのオープンからワンタッチを拾ったもの。そして14点目は、タイの監督へ再びレッドカード。奇跡の8連続得点である。 運命の15点目は、迫田がレフトから、この日、24得点目となる強烈なスパイクを叩き込んだ。東京体育館は、興奮の坩堝と化して総立ち。涙を流しているファンも。 試合後、眞鍋監督は、「長年、バレーをしているが、これほどの逆転は何十年に1回の経験だ」と、頬を赤く上気させた。負ければリオ五輪の出場権獲得に崖っぷちの状況に追い込まれる試合だった。 元アテネ五輪代表の大山加奈さんに、なぜ奇跡が生まれたかの解説を聞いた。 ――なぜ奇跡が? 「完全に負け試合でした。内容もよくありませんでした。大逆転劇を生んだのは、ロンドン 五輪代表組の意地と気迫、そして経験の差でしょう。4年前のロンドン五輪出場権を賭けた世界最終予選も、ぎりぎりで勝ち上がるという修羅場を潜り抜け、なおかつ、ロンドン五輪でもメダルを獲得しました。その経験を持つ4人が追い詰められたチームを引っ張りました。タイのチームには、そういう経験がありません。その差が出たのじゃないでしょうか」 ――木村沙織(29)、荒木絵里香(31)、迫田さおり(28)、山口舞(32)の4人の経験ですね。第1セットは、右手小指を韓国戦で痛めた木村がスタメンから外れ、20-25と落としましたが、第2セットに木村がコートに入ったことで、セットを奪い返しました。 「第一セットは、木村選手がいないためコート内がバラバラでした。 まだ荒木選手がいれば、チームがまとまるんですが、彼女がローテションで、リベロと代わってコートにいなくなると、ピンチで、誰も声をかけない。目もあわせないという状況が生まれていました。技術も大事ですが、チームプレーのバレーには、それ以上に大事なものがあります。ミスの後にどうするか。そういうチームメンタルのコントロールです。でも、木村選手が、第2セットからコートに戻ったことで流れを少し引き戻しました」