女子バレー、タイ戦の奇跡はなぜ起きたのか
――木村沙織の効果を、もっと具体的に言うと? 「ブロックが、ひっかかり始めました。木村選手のワイド攻撃に対するブロックの上手さは特筆すべきものがあるのですが、ブルームジットのスパイクに対して、必ずワンタッチをして、反撃につなげました 。ボールがタイに返っても、そのレフトのスパイクをまた木村選手が止めるという局面が何度もありました。昔は木村選手はワイド攻撃へのブロックは、苦手だったのですが、所属クラブでの練習と努力で武器にしたのです。 しかも、もう一人のタイの得点源であるオヌマーに対しても、執拗に3枚ブロックにつきました。右手小指を脱臼して痛め、その状態で、3枚で飛ぶのは嫌なものですが、痛さや怖さに打ち勝ち、必死に飛びぬきました。木村選手のブロックが、かなりのプレッシャーとなり、タイの攻撃を鈍らせました。それは木村選手にとっては当たり前の仕事だったのかもしれませんが、彼女の気持ちが伝わってくるようなプレーで、間違いなく勝利を呼びこんだ要因のひとつだと思います」 ― ―8連続得点の場面では、迫田と石井が躍動しました。 「おそらくチームに攻める気持ちが欠けていたため、迫田選手と石井選手の2人を起用したのでしょう。思いっきり助走して腕をフルスイングしていくタイプの迫田選手が打つと、チームに勢いと攻める姿勢が生まれます。眞鍋監督の采配が見事に当たりました。迫田選手と石井選手の2人は、スタメンの座を取れなかったという気持ちの部分も大きかったんだと思います。全員に言えることですが、今後も代表の座につくというメンバー争いに対して危機感を持ってコートに立っています。大会前に、合宿取材に訪れた際、石井選手もあまりパフォーマンスがあがっていませんでした。でも、大会に入って、一変、チームを救っています。眞鍋監督の見抜く力も素晴らしいですが、その期待に石井選手も応えています」 ――ファイナルセットの8連続得点は、宮下遥のサーブでした。 「エンドライン際を狙って、よく打ちました。あそこで勇気を持って攻めるサーブを打ち切った宮下選手は、本当に凄いし、素晴らしいですね」 ――タイの監督の抗議に対するレッドカードの2点。どう見ましたか。 「日本にとってはラッキーでしたが、あれだけいい試合をしていたタイの選手が、可哀想に思いました。私もレッドカードで点数が動くケースは、あまり見たことがありません。ただ、日本戦の直前にあったドミニカ共和国対オランダ戦でも、レッドカードが出されて点数が動いたんです。最初の遅延行為は、タブレット操作による選手交代がうまく いかなかったことが原因だと伝えられていますが、今大会から導入されたタブレット操作による選手交代に関しては、機械の不具合が目立ちます。こういう大事な大会で、なぜ初めて導入するのでしょうか。テストを他の大会で先にやっておくべきで、選手が可哀想で仕方ありません。 ただ、こういう得点も含めて日本の選手が心を折らなかったことで流れを引き寄せたのかもしれません」