絶滅危惧種「席でタバコが吸える店」を巡る旅【第12回】国立「Bar HEATH」
秋の国立を思い出すとき
南武線の谷保駅を出発し、途中、母校に立ち寄りながらぶらぶら歩き、国立駅前の「珈琲屋大澤」という喫茶店にたどり着いた。この日の酷暑は私の身体から水分をすっかり搾り抜き、頭は朦朧、ロクに物も考えられないほどに疲弊させていた。ああ、くたびれた。 ⇒「席でタバコの吸える店」【番外編】高校時代の思い出甦る国立をぶらり ただ、3、4時間の散歩をしただけなのに、こんなに疲れるなんて、なんと情けないことだろう。しかし、途中、クラクラしながら歩いていた私の頭には、実は細々と、昔の国立の光景が浮かんでいた。 大学通りは延々と続く桜並木が有名で、春にはたしかに、見事なものだ。しかし私はむしろ、桜の葉が色づく秋のほんの一時期が好きだった。 散歩編にも書いたけれど、高校生の頃は、一橋大学のグランド横の芝の上に寝転がって、時間を潰したりしていた。真夏は暑くて日差しの下での昼寝には不向き。春は埃っぽくて、昔も今も、苦手な季節だ。そして、冬は寒い。 なんとも情けない告白をしているが、とにかく、屋外の草の上に寝てうつらうつらするのは、秋が一番だった。 私の通っていた高校は、3年生になると生徒が科目を選択するため、人によってはかなりゆるゆるの時間割を作ることができた。私などは卒業に必要な最少単位の授業のみ受けていたので、午後は休みという曜日があった。そんなとき、一橋大学の構内でゴロゴロし、さて、コーヒーでも飲みに行こうかと立ち上がって大学通りへ出ると、桜の葉が美しく、たいへん得をした気分になった。 苦みがほどよく、香り高い、おいしいアイスコーヒーを飲みながら、秋の国立を思い出すとき、タバコは、実にうまい。そうしてほんの30分か40分、気持ちが鎮まっていくのと入れ違いに、今度は酒を飲みたい気分が徐々に膨らんでくるのだった。開店直後のバーの、最初の客になりたい。 高校生の頃はもっぱら喫茶店でコーヒーを飲むか、当時流行っていたカフェ&バー(この単語を口にするとき、今なお恥ずかしいのはなぜだろうか)で小瓶のビールなんか飲んでみることもあった。まあ、子供の悪戯だ。 とはいえ私は昔も今もお調子者であるから、悪戯のビールでは飽き足らず、ウイスキーのオンザロックに挑んだりもした。大学生のきれいなお姉さんが働いている店で「だいじょうぶぅ?」と訊かれながら飲んだのがヘイグというスコッチだったことはよく覚えている。 そうだ。今、私が欲しいのも、スコッチである。