絶滅危惧種「席でタバコが吸える店」を巡る旅【第12回】国立「Bar HEATH」
国立との深い縁を感じながら
店は今、オープンから37年。その店の33周年ボトルだから、瓶詰めは4年前になる。ベンチャーウイスキーの貯蔵庫で7年間熟成した樽出しの原酒、いわゆるシングルカスクで、度数は61度もある。 口に含むと、確かに強い酒だ。けれど、少し空気に触れさせていると、グラスの縁からいい香りが立ち上がるようで、2度目に含んだときには、ふわりと軽い、甘みが感じられた。 選り抜かれたモルト原酒を舐めながら、キューバ産のシガリロをくゆらす。小さいながらこれも葉巻だから、深く吸いこむのではなく、香りを楽しむ。 モルト原酒に2滴ほどの水を垂らしてさらに香りを開かせ、シガリロは小休止にして、ピースにも火をつけてみる。Ichiro’s Maltとピースの香りの共演は、両者が競い合い、溶け合う、まさに競演だった。 私がこのバーを知ってから、25年くらいになるだろうか。高校を出てからすっかり縁遠くなっていた国立に、行くアテができたのが、30代の後半のことだった。それ以来、東京の西のほうで飲む機会があると、帰りにふと寄りたくなる。たまには、かつての通学路である大学通りを歩いてみたいとも思うようになった。 そして本日、谷保から国立までゆっくり歩き、好きなタバコ屋に寄り、文芸書の品ぞろえがすばらしい増田書店にも寄ってみれば、エッセイの棚には拙著が4冊、置いてあった。なんと、ありがたいことか。そして、この街、国立との深い縁を、改めて感じる午後になった。 この日の3杯目は、THE NIKKAのソーダ割り。ブレンデッドウイスキーだが、モルトの風味がしっかり感じられて、ソーダ割りにしてもうまい。 酒に馴染み始めて40年経つが、ああ、まだこんなにうまい酒があるのかと思うことが、たまにある。上等なタバコを吸いながら昔を思えば、酒はいっそう、うまいのかもしれない。 【店舗情報】 Bar HEATH 住所:東京都国立市東1-15-24 サニービル B1F 電話:042-573-5135 営業時間:19:00頃~00:00頃 定休日:日曜・祝日 不定休 【ギャラリー】 【ギャラリー2】
大竹 聡(ライター)