「精神科病院から退院するのが怖かった」長期入院していた男性患者の背中を押したのは、外からの訪問者だった
厚生労働省によると、精神科に入院している人は昨年6月時点で全国に約25万6千人。半数以上が強制入院で、入院期間が10年以上に及ぶ人も約4万3千人いる。世界の中では異常な状況で、国連からは改善を勧告されている。昨年、東京都八王子市の「滝山病院」で明らかになったような深刻な虐待も後を絶たない。 そこで、外部の目を入れることで患者の権利を守ったり、病院の風通しを良くしたりしようと、この訪問支援事業が導入された。2022年に成立した改正精神保健福祉法に盛り込まれ、今年4月に施行。国が費用の半分を負担し、都道府県や政令市、東京23区などが実施する。 患者から希望が寄せられたら、訪問支援員が2人一組で面会に行く。支援員になるには研修を受ける必要があるが、資格は問われないので、一般の市民でも務めることができる。 ▽雑談する相手がいない 国の事業が施行される前から、いち早く取り組んでいるのが和歌山県と岡山市だ。どちらも昨年から実施している。 「話をして、共感してもらえたことがうれしかったみたいです」。和歌山県で訪問支援員を務める堀本久美子さん(45)は昨年12月、和歌山市内の病院で男性入院患者と面会した。
「病院の夕飯がお肉だと気分が上がるけど、魚だとヘコむ」。男性の話はたわいのない内容だった。だが、逆に言えば、そうした雑談をする相手もいないということを意味している。男性はその後も支援員の訪問を受け、今後の生活への不安な気持ちを相談しているという。 堀本さん自身、統合失調症で入院経験があり、現在は「ピア(「同等」の意)サポーター」として活動する。「入院していると、自分の希望を言うのは勇気と時間が要る。話を聞いてくれる人がいたら、安心すると思う」。堀本さんは自身の経験を踏まえ、そう話す。 精神科病院への入院は、患者の意思による「任意入院」と、行政の決定や家族らの同意による「強制入院」の二つに大きく分かれる。国の訪問支援事業はこのうち、身寄りがないなどの理由で市区町村長の同意により強制入院(医療保護入院)させられた患者を主な対象にしている。面会に来る人がほぼいないからだ。 これに対し、岡山市は全ての入院患者を対象にしていて、昨年10月から今年3月までの訪問は23回を数える。訪問支援員の研修には定員を超える参加希望があり、医療・福祉職や精神障害者の家族など58人が登録している。