たった1つのデータから小惑星「2001 CC21」の形状を推定 はやぶさ2探査予定天体
■掩蔽の観測に成功!(ただし1地点)
2001 CC21は、2023年3月5日にきりん座の方角にある恒星「TYC4082-00763-1」を掩蔽すると予測されました。小惑星の形状を探るために掩蔽の観測が試みられることは時々ありますが、2001 CC21はいくつかの点で困難がありました。 まず、2001 CC21の推定直径が約500mと極めて小さいことです。つまり掩蔽が観測できるのは、この幅とほぼ同じ幅の帯状の領域のみとなります。一方で2001 CC21の公転軌道は当時まだ誤差が大きかったため、その十数倍もの広い範囲が、掩蔽の観測ができる可能性のあるエリアとなります。候補となる領域自体が広いため、小さな小惑星は観測自体が失敗する確率が高くなります。実際、直径1km未満の小惑星の掩蔽を観測した例はほとんどありません。 2023年3月5日に発生した掩蔽では、日本の中国地方と四国地方の合計20地点で掩蔽の観測が試みられました。その結果、東広島市で観測を行っていた井田三良氏が唯一、2001 CC21によるTYC4082-00763-1の掩蔽を捉えることに成功しました(※2)。 ※2…17地点は掩蔽の観測に失敗し、2地点は機材トラブルで観測自体が行われていません。 掩蔽の観測自体は素晴らしい成果ですが、1地点の観測データだけでは他の観測データとの比較ができないため、2001 CC21の形状を知ることはできません。掩蔽が継続した時間が約0.105秒であったことから、2001 CC21のある部分の長さは449±12mであることは分かりますが、それが2001 CC21にとって最長の長さなのか、最短の長さなのか、それとも平均的な長さなのかは、このままでは分かりません。
■1地点の観測データから形状を推定する「ドウシテ」を開発
有松氏らの研究チームは、この1地点の掩蔽観測データから、2001 CC21の形状を知ることはできないかと考え、光の回折に着目した分析を行いました。回折とは、波が物体の周辺を回り込む現象です。壁を挟んだ裏側でも電波が届く現象が身近な例ですが、目に見える光(可視光線)でも回折は発生します。 恒星の光が小惑星で回折すると、掩蔽の観測データとしては恒星の見た目の明るさの微細な変化として観測されます。回折の度合いは小惑星の形状や大きさに左右されるため、回折のデータを分析することで、小惑星の形状をモデル化することができます。 有松氏らは、掩蔽による明るさの変化から、回折現象を仮定して小惑星の形状を割り出す解析手法「ドウシテ」を開発しました。そしてデータの解析結果から妥当な形状を割り出すと、短軸と長軸の比率が0.37±0.09という楕円形が浮かび上がることが分かりました。これは長さに直すと、約840m×約310mの楕円形となります。つまり、ドウシテから割り出された2001 CC21は、少なくとも先述の大きさの楕円形で表されるシルエットを持つことになります。 掩蔽という、小惑星の “影” を利用する観測手法である以上、得られる形状は2次元的です。しかしそれは、複数の観測データを組み合わせて形状を割り出す、今までの手法と代わりはありません。むしろ、たった1回の観測データから形状を割り出したという点で、今回の研究結果は優れていると言えます。 今回の研究結果は、2001 CC21の形状データが必要であるはやぶさ2の拡張ミッションに役立てられるだけでなく、他の小惑星の掩蔽観測でも生かされることが期待されます。