日本フライ級王座戦で衝撃的結末…ユーリ阿久井が最終回残り11秒で井上尚弥の後輩ホープを壮絶“失神”TKOで防衛成功
“ユーリタイム“とも言える得意の1ラウンドで主導権を握った。ここまで18戦中9試合で1ラウンドKO勝利。前日取材で桑原は「1ラウンドKOが多い、速攻型選手のイメージ。序盤にどう対応するかがカギになる。一発のパワーには注意している」と警戒していた。 だが、ユーリは、「プレッシャーをかけると焦るだろうなと。ああいう浮いた体勢になることがわかっていた」と、積極的にプレスをかけ、足を使う桑原が、左のジャブから右を打とうと体を正面に向けた瞬間を逃さない。カウンターの右ストレートを打ち抜く。桑原はダウン。「狙っていたパンチではあったが、あそこまで綺麗に入るとは」。挨拶代わりの一撃でユーリがタイトル戦のイニシアティブを取った。 残り時間はあったが無理にラッシュをかけなかった。 「回復は難しいと思った。顔に出ていた。ずっと怖がっていた」 桑原はサークリングを続けながらスピードと連打で対抗した。 5ラウンド終了時点での公開採点で2人が2ポイント差でユーリ、1人がドロー。 それは守安会長の読み通りだったという。 だが、ユーリは桑原をつかまえきれなかった。 「もっとまとめられると思ったが、相手の集中力があった。連打が凄かった」 桑原は、興国高時代にインターハイ、国体で2冠を獲得、東農大で主将も務め大学時代からスパーリングで訪れていた大橋ジムの門を叩いた元アマエリート。4階級制覇王者の井岡一翔とスタイルが似ていて、高校、大学の先輩にあたることから「井岡2世」と呼ばれてきた。桑原は連打を浴びせては、ポジションを変え、また連打という、ヒット&アウェーを徹底しポイントを奪い返していく。だが、いかんせん踏み込みが浅く「有効打」として認められるダメージブローにはつながらない。左ボディに活路を見出そうとしたが、ユーリに肘でブロックされ、そこに右のパンチを合わせられた。ユーリ陣営は映像で研究し左ボディ対策をも練ってきていた。 最終ラウンドまでの採点は、2人が2ポイント差でユーリを支持し、1人がドロー。もしユーリが残り11秒で倒していなかったとしても判定で防衛に成功していた。 大橋ジムが「ひかりTV」と初めて組んでネット配信した興行でゲスト解説には、WBA世界バンタム級スーパー、IBF世界同級王者の井上尚弥が座っていた。完全アウェーである。8戦無敗で勢いづく桑原を挑戦者に迎えての一戦にユーリ不利の声も少なくなかった。 「アウェーだし、そういう見方されてもおかしくないかなあと思っていた」 岡山の地でボクシングをすることを選んだ反骨心に火がついていた。 世界王座に2度挑戦して敗れたウルフ時光から始まり、「岡山から世界王者誕生を」を34年もの間、語り続けてきた守安会長は、「ジム開設以来、3本の指に入る感動的なファイトだった」と、ユーリのKO勝利を称えた。 4月に予定していたノンタイトルの日本スーパーフライ級11位、中村祐斗との試合は相手の体調不良で流れ、20人ほどにオファーをかけたが、すべて断られた。そこに熱望していた桑原との対戦話がきた。「棚からボタ餅だった」と守安会長が言う。 こういう注目カードに飢えていたのである。